ゲーム紹介:フォーリサローネ(Fuorisalone / Cristian Confalonieri, Lorenzo Tucci Sorrentino / Cranio Creations / 2018)

スタッフ神田の視点

 「Fuorisalone / フォーリサローネ」は、イタリアはミラノの「ミラノデザインウィーク」を堪能する観光客となって、さまざまな名所を巡りつつイベントに参加して目的カードの達成を目指すセットコレクション要素の強いファミリーゲームです。

 出版社のCranio Creationsは「バラージ」「ロレンツォ・イル・マニーフィコ」「ニュートン」など、重量級の戦略ゲームの数々で人気のあるイタリアのメーカーです。それが同社お馴染みのガイコツロゴを配置するのもちょっとためらうようなキャッチーなパッケージアート…… 一体これはどんなゲームなんでしょうか?

テーマにぴったりの華やかさ

◆そもそも「フォーリサローネ」とは?

 このゲーム、実は同名の家具とデザインの大規模イベント「フォーリサローネ」の公式ゲームらしく、同イベントの公式サイトで購入可能なゲームだったりします。ゲームのアートワーク全般を手がけているSilvia Gherraさんは、本職のアーティストの方で、このゲームで初めてボードゲームのアートを手がけたようです。

 もちろんゲームのUIに関わる部分は出版社のCranio Creationsがコントロールしていて遊びやすいデザインにはなっているんですけども、なかなか日本にはない組み合わせではあって、デザインに関心の高いイタリアならではのコラボレーションだなーと感心させられます。

 作中に登場する家具ブランドも実名表記ですし、カードに記されているQRコードを読み込むとそれぞれの名所の案内記事にリンクしてたりします。もちろんリンク先は英語/イタリア語ではあるんですが、ミラノの観光地紹介的な側面もあって興味深い内容です。

 で、「そもそもフォーリサローネってなんじゃ?」という話もあるんですけども、これもわたくし素人ながら「フォーリサローネ とは」でググってみたところ、元々「ミラノサローネ」という大規模なアートのイベントがあったところに、その出展費用を捻り出せない若い画家とか、ちょっとイベントとは気風の異なるアートをやる人達が、「ミラノサローネ」の周辺で勝手にアート作品を展示したところ、それが評判を呼んでどんどんと拡大していき「フォーリサローネ(サローネの外)」と呼ばれるようになったようです。

 で、今では「ミラノサローネ」とその周辺で開かれる「フォーリサローネ」を一纏めにしたものを「ミラノデザインウィーク」と呼んで家具とデザインの一大イベントとなっているんだとか。TOYOTA や CANON 、東芝、河合楽器、パナソニックなどの日本企業も参加しています。

 ゲーム好きに伝わるように例えるなら、「ゲームマーケットの出展費用高いなー」って思ってる人とか「わしゃ同人魂あふれるゲームを作りたいんじゃ!」って人が、ゲームマーケットの晴海棟の脇の広場でブルーシート広げてジップロック入りのゲームを販売し始めたらいつしかそれが盛況になって「フォーリゲムマ」として成立してしまい、ゲムマとフォーリゲムマで界隈が賑わうようになった……みたいな感じですよ。凄い話だな!

 で、その辺の事情を反映して「このゲームはゲリラ的にアート作品を出展して名声を高めたりするゲームなのか?」と言えば、実はそういう要素はまったくないんですが、調べてみたらめちゃくちゃすぎて面白かったのでこの場を借りてお伝えしておかねばと思った次第です。そりゃコラボゲームの1つや2つくらい作るわ…… アートだわ……

◆ミラノの名所を回ってカードを集める観光ゲーム

 ゲームは6日間に渡って午前、午後、夜の3手番を行い、全18手番でより多くの得点を獲得することを目指します。

 シンプルなルールのセットコレクションのゲームながら、長期的視野を必要としつつ、手番順による綾も随所に感じる渋いプレイ感のゲームです。

 やはりプロダクトの性格上「フォーリサローネに興味はあるけども、ユーロ文脈のボードゲームを遊んだことはない」という人をターゲットにしているのでしょう、テキストによる特殊効果もなく、これぞまさにおユーロと言った仕上がりの1時間程度で終わるファミリーゲームです。

 ゲームには大きく分けて2つの得点手段があり、1つはセットコレクション要素のある「目的カード」からの得点。もう1つは1日の終わりに発生する「人気のある地域」からの得点です。

 一つ目の得点要素、「目的カード」は、記されている2~5枚の組み合わせの「デザインアイコンカード」を支払うことで獲得し、得点化できます。「デザインアイコンカード」は、各地の「イベント」に参加することで獲得できるので、これを集めるためにプレイヤーはミラノの町を練り歩くことになります。

 イベントは、「場所カード」とボード上で示される時間(午前、午後、夜の3種のスペース)の組み合わせによって示され、「指定された時間に指定された場所に辿り着く」ことでイベントに参加する=デザインアイコンカードを獲得することができます。

 もう一つの得点要素、「人気のある地域」は、1日の終了時、つまり3手番ごとに起きる決算のようなもので、自分のいる地域で起きるイベント数に応じた得点が獲得できます。カードによる得点は結構渋いので、こちらの得点もバカにはできません。

 イベントは誰かが参加するたびにコロコロと開催地点が変わるので、人の動きを先読みすることで、将来的にイベントが集中開催されるエリアを見越すこともできる……かもしれません。

 基本的には「目的カード」の達成を目指す。~ために「デザインアイコンカード」を集める。~ために各地のイベントを渡り歩くゲームです。

 1日の終わりには「人気のある地域」で移動を終えたいので、ここにちょっと短期目標と中期目標のジレンマがあり、どういうルートで歩くのが最適なのかをパズルチックに検討する、目的は単純ながら悩みがいのあるゲームになっています。

◆手番はシンプルで簡単!? いや、むしろシンプルすぎてキツい……!?

 手番で行うことは、基本的には1スペース分を無料で移動するだけ(その場に留まることも可)。これ以上ないくらいのシンプルさ加減です。

 ……つまり言い換えると、これは1手で1歩だけ歩いてめちゃ広いミラノの町に点在するイベントに参加せえよとプレイヤーに求めているゲームなのです。えーっと、ぼくの行きたいイベント、夜に開催するんですけど、4歩先だと1日中歩き詰めても間に合わないですよね!?

 手番はシンプル! それゆえに逃げ場がない! なんか見た目に反して結構厳しい経路マネジメントを要求してきますこのゲーム。

 もちろん、それだけではゲームとしては工夫の余地がなさすぎて面白くありません。

 安心してください、Cranio Creationsと言えばルチアーニの諸作でお馴染みの出版社! ルチアーニに習ったのか、彼の得意技、フリーアクションがこのゲームにも導入されているワケですよ!

 それが「追加移動」。

 移動のあとに、プレイヤーは好きな回数の追加移動を行うことができます。やったね!

 しかし、追加移動をするためには「移動トークン」を3枚支払う必要があります。なんやて!?

 で、移動トークンの入手手段は2つあります。

 1つ目は毎朝の定期収入で1枚。ゲームは全部で6日間なので、6枚は確実に貰えるということになります。

 が、これはどちらかと言えば補助的な獲得手段で、ゲームボード上に配置されている移動トークンを拾い集めることが移動トークンの主な獲得手段となります。

 セットアップ時、ゲームボードのすべての地点には移動トークンが1枚だけ置かれます。そして、移動終了時にその地点に移動トークンが置かれていれば、移動トークンを獲得することができます。

 移動トークンはセットアップ時にのみマップに配置され、以降補充されることはないので、人に先んじて移動トークンを拾うことも重要です。

◆人の動きを観察せよ! バッティングを避けるか、敢えてぶつけるか?

 移動トークンの例からもわかるように、このゲームは先手の動きに倣うと途端に不利になるタイプのゲームです。そしてそれは得点に大きく絡む目的カードでも同様です。

 というのは、目的カードはゲームボード上の共通の場に表向きで置かれており、要求されるデザインアイコンカードをいち早く揃えたプレイヤーだけが獲得できる仕組みになっています。集めたデザインアイコンカード自体は非公開ですが、プレイヤーの動き方でどのカードを集めているかはなんとなく記憶できるので、目的が被ると緊張感が生まれます。

 誰かが目的カードを獲得すると、即座に新しい目的カードが公開されますが、そこに示されているデザインアイコンカードがこれまで集めていたものとうまく合致するかと言えば難しいものがあるでしょう。

 このゲームは一手の差が大きく明暗を分けるゲームです。相手より一歩でも先に動けるか、相手より一手でも先にカードを揃えられるか。そこまで見越した上で行動しないと無駄足を踏まされるハメになりかねません。

 逆に言えば、相手の先手を取れれば、相当に優位に立てます。路線変更の難しいこのゲームでうまく相手を出し抜けば、得られる利益は相当なものになります。

 従って手番順はかなり重要です。シンプルであるがゆえに手番順の綾がズドンと効いてくるゲームではあります。

 よくある時計回りにスタートプレイヤーが動くルールなので、快適な1番手の後は、忍耐の必要な4番手が回ってくるので、手番の違いでリスクの取り方も丁寧に変えていく必要があるでしょう。

◆コラボゲームとは思えない、安定感のある仕上がり

 冒頭でもご紹介した通り、このゲームは「フォーリサローネ」という題材ありきで作られたゲームではありまして、「実在する68ヶ所の名所をどーしてもゲームに取り入れなアカンのや!」みたいな制約が存在する中、制作の歪みを感じさせず要素を自然に取り込んで1個のユーロゲームとして着地させている点に編集力(ぢから)を感じさせます。

 言い忘れてたんですがこのゲームは新人デザイナーCristian Confalonieriと、「Dungeon Fighter」「Horse Fever」のデザインに名を連ねるLorenzo Tucci Sorrentinoの共作です。後者のSorrentinoはCranioの諸作で名前を見るので編集気質の人なんだと思います。

 一方でターゲッティングが普段ボードゲームを遊ばない人向けということで、斬新なメカニクスだったり数寄者(すきもの)が呻くようなツイストには欠ける点はありますが、誰でも遊びやすく楽しめる素直な一作に仕上げています。ここはボードゲームの現在の流行を捉えていると言えましょう。

 あんまり書きすぎると興が削がれるので省きますが、勝つために活用できる細かいテクニックも随所にありまして、よく考えて遊ぶとちょっとは有利になるよ、という作りにはなっています。そこはゲームメーカーならではのいい意味での底意地の悪さを感じて愉快ですね。

 一方でカードのめくりなど適度な運要素もありーので、予想外のポロリでキャッキャすることもありますし、もちろんゲームボードの描き込みの細かさなどアート面の尖りっぷりは言うまでもなく、見ているだけで気分がアガるゲームです。クリスマスを控えて家族で遊べるボードのしっかりしたゲームをお探しの方、この選択は結構アリなんじゃないでしょうか?

◆プリントアンドプレイのミニ拡張も見逃せない!

 話は変わって、テンデイズゲームズの「フォーリサローネ」販売ページでは、ミニ拡張のPnPファイルを公開しています。

https://tendaysgames.shop/?pid=155509057

 1つ目はプレイヤーごとに個別の能力をもたらすミニ拡張「あなたは私が誰か知らない!」(すげー翻訳調のタイトル)。

 2つ目のミニ拡張「雨だ!」は毎日起きる様々なイベントカードを提供します。

 これらはモジュール式で選択して入れることができるので、好みによって使い分けるのが好ましいでしょう。

 ミニ拡張「あなたは私が誰か知らない!」は、プレイヤーに非対称の特殊能力を付与する拡張です。アッパー調整で変化の入るキャラクター能力はゲームにさらなる華やかさを与えることでしょう。

 基本ゲームはかなりシンプルな作りではあるので、この記事を読んでるような重篤な人は最初からこのミニ拡張を入れて遊ぶのもよいかと思います。

 ミニ拡張「雨だ!」は、より観光っぽさを増すアクシデント性を高める拡張で、パーティ感を向上させ、より起伏のあるゲームプレイが楽しめることでしょう。ファミリー向けに遊びたい方ならこちらの拡張をオススメします。

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