スタッフ神田のゲーム紹介:パンダスピン

プレイ人数:2~5人
プレイ時間:25分
対象年齢:10歳~

「パンダスピン」は、日本で、そして世界で一大ムーブメントとなっている大富豪系ゲームの新作です。

大富豪は日本で最もメジャーなトランプゲームのひとつであり、特に日本人作家の得意とするジャンルではありますが、「パンダスピン」の作者はなんとあのカール・チャデクです。「その名前、久しぶりに聞いた!」という方もいるかもしれませんが、「ローマに栄光あれ」「イノベーション」「レッド7」などツイストの効いた作品を多く作るクセ強デザイナーとして知られている氏なだけに、彼が大富豪をどのように調理したかは興味の沸くところではないでしょうか(ちなみにチャデクは中国で暮らしていたことがあり、その頃に遊んだ大富豪系ゲームがパンダスピンの着想の元になっているそうです)。

この記事ではそんな「パンダスピン」の特徴と魅力についてご紹介したいと思います。

◆アジアの香りが立ち上る伝統ゲーム由来の組み立て

このゲームのタイトルでもある「パンダスピン」ですが、パンダと言えば、そう、中国。本作は十二支に加わりたいパンダが竹の葉を食べているところでひらめいたゲームという建付けのため、このゲームのカード構成は、十二支の動物+パンダのイラストが描かれた13ランクとなっています。ちなみに大富豪と同じく最大ランクは「二(漢数字の2)」です。スート数はプレイヤー人数と同じ数を使用します。

大富豪系ゲームの基本に則り、手札を出し切ることが本作の目的です。誰か1人が手札を出し切ったところでラウンド終了のトリガーが引かれ、そのトリックが終わるまでプレイを続けます(なお、このゲームでいう「トリック」は、トリテで一般的に使われる1巡を示す単位の意ではないんですけども、他に使いやすい言葉がないのでここでは便宜的にトリックと呼びます。ゲームのジャンルとしては「トリックテイキング」ではなく「ラダークライミング/シェディング」に分類されるゲームです)。

手札を出し切ったプレイヤーは、他プレイヤーの手札枚数の中で最も多い枚数に等しい得点を得ます。つまり、失点制ではなく得点制のゲームで、同トリック内で複数プレイヤーが手札を出し切る場合もあり得ます。最終的には15点を獲得したプレイヤーがゲームに勝利します。

さて、スタートプレイヤーは任意のカードセットからなる「役」をプレイしてトリックを始めます。役には1枚出しの「シングル」、同ランクカードの複数枚出し「セット」、連番ランクカードの複数枚出し「ラン」、同ランクかつ連番ランクカードの複数枚出し「フォーメーション」、4枚以上の同ランクのセット出し「ボム」の5種類があります。

様々な役がありますが、サマリーにわかりやすくまとめられています。

「Tichu(1991)」「Chimera(2014)」などに代表される伝統ゲーム由来のルールらしく役の種類は多めで、「ボム」の存在にニヤリとする人もいるかもしれません。ちなみにこのゲームでは「ボム」はいつでも割り込んでプレイできる特別な役ではなく、役の縛りを無視してプレイできる最強の役という位置づけです。

さて、最初の役がプレイされた後、続くプレイヤーはリードされた役と同じ種類で、かつ、より大きなランクを含んだ役をプレイしなければなりません。

プレイできないとき、あるいは戦略上の理由でプレイしたくない時にはパスを選択します。ちなみにこのゲームのパスは1度宣言したら復帰できないハードパスです。

そのようにプレイかパスかを続けて、だれか1人を残して全員がパスしたらこのトリックは終了。最後まで残ったプレイヤーが新たなスタートプレイヤーとなってゲームを続けます…… と、はい、ここまでは大富豪ゲームとしてはごくごく普通の組み立てですね。

◆スピンさせよ! 変幻自在に強くなるカードたち

さて、このゲームの1番の特徴的な部分はカードを「スピン」させるメカニクスです。

動物カードは上下にデザインが分かれていて、一般的な白側と、より強力な青側の2種のバリエーションを持っています。
最初にカードが配られたとき、プレイヤーは白側を上にしてカードを持ちます。もし自分のプレイした役が他のプレイヤーの役によって上回られた場合、プレイしたカードは「スピン」して手元に返ってきます。

スピンしたカードは青側を上にして手札に戻すのですが、青側はより強力なランクだったり特殊効果が記されているため、それまで不可能だった、より強い役を作れるようにもなります。

そのため、このゲームでは最初の手札を見て、どのカードをスピンさせて、どんな役を作れば素早くカードを出し切ることができるかを考える必要があります。

カードには木、火、土、金、水の5種のスートがあり、それぞれのスートによって強化の方向性が異なるため、最適な戦略をパッと見で判断するのは難しいでしょう。通常の大富豪から一段階複雑な頭の使い方を要求されますが、基本的には1ゲームで使用する手札は最初に配られたものだけなので、徐々に変化する状況に対応するアドリブ力よりは、初手からゲームの流れを見通す大局観が重要なゲームと言えます。

例えば、火の動物カードは不要なカードを捨てられる特殊効果がつき、金の動物カードは複数のランクを持つため強力なセットやボムを作れるようになります。

また、通常のプレイングカード、動物カードの他に、ゲームには玄武、青龍、白虎、朱雀、黄龍をあしらった強力な「元素カード」があります。

明確化として五行のサイクルが記載されていますが、ゲーム中には五行によるカードの強弱とかはありません! 欧米プレイヤー向けの中華思想の紹介という感じです。

元素カードはプレイ中の役の種類に関係なく1枚でトリックに即勝利できる強力なカードなのですが、そのプレイには制約とデメリットがあります。


制約としてはプレイするための条件が定められていることで、元素カードによってそれぞれ異なるプレイ条件が課されているため、最適なタイミングで出せるとは限りません。また、デメリットとして元素カードをプレイした場合、プレイヤーは山札からランダムに2枚のカードを引いて手札に加えなければなりません。

先ほど、このゲームは初期手札から大まかな戦略を定めてその達成のために動くゲームだとお伝えしましたが、元素カードは強力な反面、その組み立てを台無しにしてしまうデメリットも合わせてもっているのです。

なので後半になればなるほどプレイしにくい…… とは言え、後半の要所でスタートプレイヤーが確定する奥の手があるのは強い…… というジレンマが元素カードにはありますね。

また、元素カードは手番でプレイせずにポイ捨てすることもできます。うまくゲームが進んで元素カードが邪魔になった場合はポイ捨てすればいいだけなので、単純に便利なカードとは言えますね。

◆変わり種好きに刺さる、スパイシーな技巧派大富豪

本作は手札を整えて整えて整えて、強力な役で相手を圧倒するのが気持ちいいゲームです。ただ、そのためにはどのカードをスピンさせて、どのタイミングで勝負を仕掛けるかを見極める必要があります。

カードの強化法則が相当に複雑なところがチャデクらしいひねくれ加減で「これとこれを強化すれば、あ、うん、ダメか……? あ、でも、こっちなら……?」と手元をカチャカチャさせる時間も短くはありません。特に初回プレイではこの仕組みに面食らう部分があるかもしれませんが、逆に言えば、遊びこむだけ習熟が進む奥行きのあるゲームと言えます。

そのため、バニラの大富豪のようなカジュアルでスピーディな展開、テンポのよさは望めない作りではあるのですが、与えられた手札をどう使いこなすかをプレイヤーに強く問いかけてくるテクニカルで歯応えのあるゲームとなっています。

プレイ人数は2-5人となっていまして、実はこの手の伝統的大富豪ゲームは2人で遊んでも面白いものが多いです。トリテなんかは2人/4人だと和食/洋食くらい味わいが離れてしまうのですが、ラダークライミングゲームは2人でもマルチプレイと同じようにトリックが続くのでメカニクス上の味わいの変化は薄いと言えます。

様々な大富豪系ゲームが発売されている昨今ではありますが、伝統ゲーム系列の大富豪ゲームは日本では割と馴染みが薄いかとも思います。このゲーム特有のスピンのメカニクスを抜きにしても、役の組み立てやランクの設定などからアジアンな空気をビシバシと感じられます。

こうしたタイプのゲームを遊んだことがない人にとっては特に刺激的な内容のゲームだと思いますので、一味違ったゲームを探している方はぜひ試して頂ければと思います。

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