【ゲーム紹介】エリアンティス(Eriantys / Leo Colovini / Cranio Creations / 2021)

 「エリアンティス」は、浮遊する島として表された「陣地」に駒を置き、より多くの駒を置くことでその陣地を取り合う「多数派陣取り」と呼ばれる王道的なジャンルの作品です。
 しかし、駒を配置する「手前」の段階と、駒を配置し陣取りを行った「後」の段階に、スパイスの利いたアイデアを盛り込むことで非常にユニークな味わいの陣取りに仕上げられているのです。
 一方で、アブストラクト(ここでは完全公開情報ゲームの意)感の強さもあり、油断のならない展開が続くことから、苦手意識を持つ方もいるかもしれません。しかし、だからこその唯一無二の魅力を持ったゲームになっていると言えるのです。
 今回の記事では、そんな「エリアンティス」の魅力を掘り下げていきたいと思います。

駒を支配するのはどのプレイヤーなのか!?

 先に書いたように「エリアンティス」は、「陣取り」のゲームです。
 浮遊する島として表された陣地に、プレイヤーの影響力を示す駒を置き、「母なる自然」と名付けられた駒が、その島へと止まった時に判定が行われ、影響力のもっとも高いプレイヤーがその島を獲得することになります。島を獲得したプレイヤーは、所有権を表す駒を置いていきます。もちろん、影響力が変化することで所有権はプレイヤー間で移ることになり、取ったり取られたりの攻防が繰り広げられるわけです。
 この時点では、非常にスタンダード、素直な陣取りゲームに見えることでしょう。
 しかし、「エリアンティス」において、プレイヤーカラーと影響力を競うために置かれる駒の色は、「=」(イコール)ではありません。
 影響力を競うために置かれる駒は、ゲーム開始時点では誰のものでもなく「中立」なものとして存在します。
 ゲームを進める中で、プレイヤーは、駒(の色)に対する影響力を高めることになり、それぞれの駒は、もっとも影響力を持っているプレイヤーの支配下に置かれることになるのです。
 すなわち、陣地への影響力を競う「手前」の段階で、駒への影響力を競うことになるわけです。
 例えば、ある陣地に、水色の駒が4個、ピンクの駒が2個、置かれていたとします。あるプレイヤーが、その両方を支配下に置いているならば、その陣地への影響力は「6」となります。しかし、ゲームが進み、他のプレイヤーが水色の駒への影響力を高め、超えられてしまったならばピンクの駒の影響力しか持たず、その島の影響力は「2」へと下がり、一方で水色の駒を支配下に置いたプレイヤーは、その島へ「4」の影響力を持つことになります。そして、その結果、2対4で、その島の支配権すら取られてしまうことになるのです。
 この仕組みは、「所有する株式の数でゲーム内での会社の経営者が変わる」というような形で、スケールの大きな経済ゲームでは見られるものですが、それを陣取りゲームに取り入れたわけです。
 このシステムによって、プレイヤーは島への影響力だけでなく、どの駒(の色)がどのプレイヤーの支配下に置かれているのか、そのパワーバランスはどのように変化する可能性があるのか、通常の陣取りゲームよりも広い視野で見て、判断する必要が出てくるのです。

 では、駒への影響力は、どのように高められていくのでしょうか。
 プレイヤーは、手番において、3個(プレイ人数によっては4個)の駒を自分の手元から送り込むことになります。
 送り込む先は、大きく分けて2つ。陣地となる島か、影響力を高めるためのトラックか、です。
 ゲームに慣れている人であればピンと来たかもしれません。島を獲得する、もしくは獲得済みの島の守りを盤石にする―そのためには島に送り込む必要があります。しかし、島に注力しすぎては、影響力を簡単にひっくり返されてしまうかもしれない―あまりに悩ましい選択が迫られることになるのです。

 駒への影響力を争った上で、島への影響力を争う―この、二段構えの仕組みは、ユニークさと常に緊張感を伴ったシビアさを兼ね備え、「エリアンティス」の大きな魅力になっているのです。

島が合体!?ダイナミックな展開が続く中盤から後半戦!

 続いて、陣取りを行った「後」に用意されたアイデアを見てみましょう。
 「エリアンティス」の陣地は、浮島という設定になっており、それぞれの島は(ゲームのルール上は隣接しあって輪のように連なっているものの)分かれて存在しています。
 隣り合う島を同一のプレイヤーが獲得した場合、それらの島は合体し、一つの大きな島を形成することになります。
 そして、合体することで、置かれていた駒もすべてその一つの島に集約されることになります。島の所有者が置いている得点としての意味も持つ塔も合わせて置かれるのです。
 要するに、大きさに比例してゲームにおける価値も大きく上がるというわけです。

 それぞれの島を同一のプレイヤーが獲得した上での合体ということは、基本的に島の守りはより強固で盤石なものになるのですが、一方で、もし、その島を取られるようなことがあれば、ゲーム自体の戦況が一変するということでもあります。

 この島の合体は、そのダイナミックさが盛り上がりとゲームとしての展開の奥深さの二つの面に大きく利いてくることになり、やはり大きな魅力になっているのです。
 手を的確に進め、島を一つ、また一つと獲得してきたプレイヤーがそのまま押し切るのか、はたまたいずれかのプレイヤーによって覆されるのか―終盤まで気の抜けない戦いが繰り広げられるでしょう。

三人戦こそが真骨頂!三つ巴の戦いはあまりにも熱い!熱すぎる!

 明るいテイストのイラストで彩られた「エリアンティス」ですが、実際のプレイ感はややシビアなものになっています。
 常に緊張感をまとった影響力の綱引きと、ゲーム終盤まで続く緊張感のある展開は、駒ひとつがゲームに大きく関わってくるバランスや、カードによって行われる「競り」に似た手番順決定といった要素から綿密に組み上げられたものなのです。
 そして、この「エリアンティス」ならではの緊張感は、三人戦でさらに極まったものになります。
 もちろん、4人や5人のプレイヤーでさまざまな軍勢が入り交じる中、激しい戦いが繰り広げられるのも悪くありません。
 しかし、それがそのゲームにおいて最良のゲーム体験をもたらしてくれるかどうかは別の話。その点、ややシビアなゲーム性を持った「エリアンティス」において、最大プレイ人数を4人までとし、しかも、4人戦はチーム戦としたことは英断であると同時に、適切な判断だったように思います。
 そして、このシビアなゲーム体験をより深く味わうことができるのが、三人戦なのです。
 三人戦でのルール変更を見ても、それは明らかでしょう。
 一手番に置くことのできる駒の数は3個から4個に増え、より幅広い手を打てるようになっていたり、獲得した陣地を示す駒であると同時に「置ききったら勝利=目標得点」として用意されている塔駒の増加であったりと、ゲームのスケール感すら変わるこの三人戦は、「エリアンティス」を語る際には外すことの出来ない大きな魅力と言えます。

 着実な陣地獲得合戦はもちろんのこと、漁夫の利を狙うような展開も随所に生まれることで、一手の重みは増し、相手の思惑を的確に読む力もより求めらるようになる―そして、三人のプレイヤーによる拮抗したパワーバランスが崩れた時に、大きくゲームが動くこととなり、その結果もたらされる島の合体によるダイナミックな展開―そこから得られる興奮はたまらないものがあります。そしてこれは緊張感の続くゲーム展開があってこそ、より一層際立つものになっているのです。

そんな「エリアンティス」、実はリメイクなんです。

 ここまで紹介してきた「エリアンティス」、2000年に発表された「カール大帝」のリメイクなのです。
 といっても、ただのリメイク作ではありません。「バラージ」や「ツォルキン」、「ロレンツォ・イル・マニーフィコ」と言ったタイトルにデザイナーとして関わり、今やゲームシーンを代表するデザイナーとなった感のあるシモーネ・ルチアーニ率いる開発チームによるリメイク作なのです。
 今回のリメイクで振れたい点は、その丁寧なバランス調整でしょう。
 例えば、陣地となる島の数が減らされ、それに比例してプレイ時間も大きく短縮されています。緊張感が続くだけに、ゲーム終盤に疲労感を感じることもあった「カール大帝」と比べ、その疲労感が大きく軽減されたことで、終盤まで駆け引きに集中できるようになっています。また、単にシビアなだけでなく、「鋭さ」も兼ね備えたゲームになったように思います。
 補充される駒が、「袋からランダムで引いたもの」から、「ラウンドの最初にランダムで用意された組み合わせから選ぶ」ものへと変更になったこともそうです。
 「袋からのランダムで引いたもの」としていたのは、ままならなさをあえて盛り込むことでシビアさを軽減する意図があったようにも思うのですが、「せっかく組み立てた戦略が引かれた駒の善し悪しによってどうにもならなくなってしまう」ことに繋がることも少なくなく、ゲーム本来の魅力と相性がよかったかというと疑問が残るところです。今回の調整では、ややシビアなゲーム性が強調された感はありますが、それ以上に、魅力を引き出すことに成功しており、大歓迎の調整と言えます。

 そのほか、選択ルールとして、リソースとなる「コイン」を加え、そのコインを支払うことで、ここぞという時に特殊効果を実行できるというような現代的なアプローチも盛り込まれています。その交換はいずれも強力なものですが、ゲームを通して獲得できるコインの総量から、それほど使用出来る機会は多くなく「ここぞ」というタイミングを見極めることが必要なバランスになっており、「エリアンティスにおける特殊効果」の盛り込み方としては最良のものになっているように思います。

バチバチの熱い陣取りを味わえるゲームは今や希少!体験すべし。

 ドイツゲームを代表するシステムだった「多数派陣取り」も今やそれほど見ることができなくなってしまいました。
 プレイヤー間でのバチバチなせめぎ合いが見所となるものとなると、なおさら、です。
 そんな中でリリースされた「エリアンティス」は、「現代的なアプローチで陣取りを蘇らせる」―そんな挑戦なのではと捉えたくなります。
 その挑戦は果たして実を結んでいるのか?
 バチバチの熱い戦いを味わいつつ、そんなところにも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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