「Doodle City(2014)」や「Avenue(2016)」など、優れた紙ペンゲームを作り続けているØstbyとSvenssonのAporta Gamesコンビが2019年に世に送り出した紙ペンゲームが「ツカナ諸島の小径」です。ちなみに作者の一人Svenssonは自分の出版社Chilifox Gamesから「Riverside(2019)」という紙ペンゲームも出版しています。
この2人はゲームファンからの評価が高い「知る人ぞ知る」技巧派デザイナーコンビだったのですが、近年では「リバイブ(2022)」のヒットでより多くの人が知る存在となったのではないでしょうか。この「ツカナ諸島の小径」も両作者の持ち味が存分に活きたタイトルで、シンプルなルールながら腹ごたえのあるゲームプレイを堪能することができます。
ちなみにテンデイズゲームズでは以前に和訳付き英語版を「ツカナ諸島の小道」として販売していたのですが、日本語版ではタイトルを「ツカナ諸島の小径」に改めました。こちらは豆知識として覚えて頂けると何かの折に役立つかもしれません。
また、今回の日本語版は「拡張:フェリー」を同梱した特別版となります。基本の2マップに拡張の2マップが加わっているので、以前の英語版とはかなり趣の異なる内容となっております。
◆一捻りのあるフリップ&ライトに挑め
前項では紙ペンゲームとお伝えしてきましたが、より正確さを求めた表記を行うならば「ツカナ諸島の小径」は「フリップ&ライト」形式のゲームです。プレイヤー共通の山札からカードをめくり、その指示に従って各自が専用シートに書き込んでゲームを進めていく形式のゲームの通称です。
フリップ&ライトは「ロール&ライト」ジャンル内部のさらに一派閥という位置づけになるのですが、ロール&ライトとフリップ&ライトの違いはランダマイザーがダイスかカードかの違いです。
フリップ&ライトでは6枚の山札にAというカードがあるならば、Aのカードが山札から引かれる確率は初回は1/6、2回目は1/5、3回目は1/4……と収束していくのに対して、ロール&ライトでは6面ダイスのAという面が出る確率は初回は1/6、2回目は1/6、3回目は1/6……と試行による確率の変動はありません。
このランダマイザーの性格の違いをどうゲームデザインに活かすかがゲームデザイナーの腕の見せ所と言えます。この作者コンビの作品では「Doodle City」や「Riverside」ではダイスを使っているので、単純にどちらが優れているかというよりは、どちらにも特徴があるというのが見方としては正しいのではないかと思います。
さて、「ツカナ諸島の小径」はフリップ&ライトの特徴通り、各ターンではカードを引いてその結果を適用します。ここで面白いのは、このゲームでは2枚のカードを同時に引き、各カードの地形をそれぞれ始点と終点とする小道1本を地図上に書き込む作りです。
フリップ&ライトでは1枚のカードをめくってその結果を適用するものが多い中、このゲームは2枚のカードの組み合わせを適用する一捻りがあり、それがこのゲームを手強く、奥深くしています。次に何が出てくるかの予測が難しい!
とは言え、それぞれの地形カードは枚数が異なるので、例えば「水域&水域の組み合わせは出てくる確率が低いからそのルートは避けようかな」といった予測も立ちます(まあ、これが意外とポロッと出てきたりするんですけども……)。
次々に公開される地形の組み合わせにどうレスポンスしていくか、時に計画を修正し、時に博打に出る楽しさがこのゲームには詰まっています。
プレイヤーは各手番に小道を1本引いて「名所」や「村」を繋いでいきます。オベリスク、イエティ、海の怪物などの島の「名所」は、いずれかの村と繋げることで得点となります。
また、「村」にはA-Eまでのアルファベットが振られており、同じアルファベットが振られた村同士を繋げることで早取りの得点を得ることができます。
ここで重要なポイントが2点あります。
1つ目は、名所の価値です。各ラウンドの終了時にプレイヤーは村に繋いだ名所から得点を獲得するのですが、基本ゲームでは全2ラウンドを行い、各ラウンドで得点が計上されます。
つまり、1ラウンド目に村に繋いだ名所は、2ラウンド目のそれの2倍の価値があるということです。
2つ目は、追加の小道です。同じ種類の2つ目の名所を村に繋ぐと、プレイヤーは即座にもう1本の小道を引くことができます。
この小道は現在の地形カードにかかわらず、オールマイティな道として引くことができます。また、先述の得点の仕組みから、この追加の小道をなるべく早く引くことで得点のチャンスを広げることもできます。
また、村同士の接続による早取りの得点は、名所からの得点とは異なり、どの時点で達成してもゲーム中には1度だけしかカウントされません。とは言え、この得点は早い者勝ちなので(4人プレイ以下は先着1名、5人プレイ以上は先着2名)、これも達成を急ぐ必要があります。
ここからわかる通り「ツカナ諸島の小径」は限られた手数の中で得点となる小目標の達成を急ぐゲームです。
ですが、同時に一本の道を重複利用して、なるべく多くの村や名所に繋ぐことで道を節約するグランドデザインを描くことも重要です。高得点となる村同士は必ず遠い位置にあるため、最初から意識して道を繋げていかないとなかなか達成できません。
この短期目標と長期目標の兼ね合いのバランスがうまーく調整されているところがこのゲームの白眉な点と言えましょう。とにかく短期目標を達成するために最短経路を進むもよし、長期的な展望を元にじっくりと準備を進めていくもよし、どちらの戦略にも強みがあってプレイの自由度が高いゲームと言えます。
トータルとして、手番でやることは非常にシンプルながら計画性が求められる歯応えの良さと、予測が難しいながらも理不尽さまでは感じない適度な運要素が絡み合い、随所に渡って隙のないハイパフォーマンスなゲームです。
1プレイは20分程度、プレイ人数は1人から8人まで対応可能と、様々な場面で活躍できる使い勝手の良いゲームなので、多くの方に喜んで貰えるタイトルであることは間違いありません。
◆拡張フェリーで遊び応えはさらに増大
「ツカナ諸島の小径」は、基本ルールとなる「プチ島」のマップと、配置に変化がありゲーム自体も2ラウンドから3ラウンドに増大する「グランデ島」のマップの2種のルールを遊ぶことができます。
今回の日本語版ではさらに「拡張:フェリー」が同梱されていて、「バイア島」と「ハビタ島」という新しい2種のマップを楽しむことができます。「基本ゲームを何度か遊んだ人にお勧め」という表記からもわかる通り、新ルールを加えて少し難易度が増した新マップです。
この拡張では新要素の「フェリー」が加わります。フェリーは名所の一つとして扱われるのですが、基本ゲームでは繋げば繋げるだけ嬉しかった名所とは異なり、フェリーはなんと失点をもたらす場合があります。もちろん、1ラウンド目に失点となるフェリーを繋いだ場合、失点を2回受けることになります!
また、フェリーは小道として扱われる航路を持っていて、要所のショートカットに利用できます(このマップの作りがまた絶妙でして)。そのため、1ラウンド中にフェリーを使えば名所が繋げるぞという状況など「失点は痛いけどフェリーを使って名所からの得点を稼げばワンチャンお得では……?」というリスクとリターンのジレンマが新しく加わります。そのため、この拡張ではフェリーの使い方の巧拙が勝敗を分けることになるでしょう。
総決算となる「ハビタ島」では、「グランデ島」同様の3ラウンド構成に加えてミドルトン、ノースヴィル、サウスベリーの3つの村が加わります。
3ラウンド構成ということもあり、「ハビタ島」は巨大なマップです。中にはアクセスが難しい名所もあるのですが、追加の3つの村を始点とすればこれらの名所に素早く繋げることもできます。しかしながら、村同士の早取りが進まないというリスクもあり、やはりリスクとリターンをどう折り合わせていくかで悩ましさのあるマップと言えます。
見た目には小さな変更のように感じられますが、乱数に左右されない固定の経路の存在はゲームに新たな選択肢と彩りを与えます。より奥深くなった「ツカナ諸島の小径」を堪能できますので、ぜひぜひ試してみて頂ければと思います。