【スタッフ神田の視点】ネクストステーション:トーキョー

「ネクストステーション:トーキョー」はカードをめくってその指示に従って専用シートに書き込む「フリップ&ライト」タイプのゲームです。2013年のドイツ年間ゲーム大賞ノミネート作「Qwixx」から注目を集めたロール&ライトゲームの系譜となる本作は、2023年のドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされた「Next Station: London」の姉妹作でもあります。

ドイツ年間ゲーム大賞は、数あるゲーム賞の中でも特に新規性を重視するアワードなのですが、それではノミネートに輝いたこのシリーズの魅力と独自性はどこにあるのでしょうか。この記事ではそれらを紹介していきたいと思います。

◆4色の鉛筆で地下鉄網を描き込む

このゲームには青、ピンク、茶色、紫の4色の鉛筆が同梱されています。各プレイヤーはこのうち1本を持ち、それぞれの色の出発駅から路線を延ばしていきます。……が、実はこの色はプレイヤーの担当色ではありません!

各ラウンド終了後、各プレイヤーは手持ちの鉛筆を左隣のプレイヤーに渡し、新たな色の鉛筆で新たな色の出発駅から新たな路線を引き始めます。これを4回繰り返し、4色の路線が完成したところでゲームが終了します。

つまり、各プレイヤーは4色の路線をそれぞれ異なる順番で書くことになります。各色の路線は「交差してはいけない」「同じ区間を通ってはいけない(一部例外あり)」といった取り決めがあるため、後半になると自分が敷いた路線が邪魔になったりもします。

各ラウンドでは、11枚からなる駅カードをランダムに公開していき、示されている記号(▢△☆〇の4種)が終点となるように路線を延ばします。基本的には一筆書きとなるように線路の始点か終点を延長していく形になります。

個人的に「フリップ&ライト」タイプのゲームでは「カードの構成がシンプルであること」が重要だと思っています。自分にとって出て欲しい&待っているカードがどれくらいの確率で出てくるかが暗算で出せる方が盛り上がりに直結しやすいからです。

その点に関して言えば「ネクストステーション:トーキョー」はシンプルなカード構成でわかりやすく盛り上がりどころが用意された王道のフリップ&ライトと言えましょう。その上で「△の前に〇が来て欲しい!」とか「ジョーカーか△のどっちか来てくれ!」と言った待ちの局面の豊富さがシンプルな運試し以上のコクを生み出しています。

ゲーム中は線路を引き、駅を繋いで高得点を目指すのですが、基本的には「最も駅が多い区画の駅の数」と「路線の通っている区画の数」の掛け算で得点を獲得します。要は、1つの区画を選んでそこの駅だけ集中的に路線を通し、同時に1つしか駅がない区画を大量に作れると得点が伸びます。

とは言え、先述の通り、どこに線路を引けるかはカードの引き次第なので、なかなか狙った通りにはいかないのですが、どのカードが出てきても得点を伸ばせるように「受け」を広げるのがテクニックとも言えます。

また、こうした基礎点以外にも複数の路線が利用する乗換駅を作ったり、郊外の路線を作ることで得られるボーナスもあり、様々な得点要素から状況に合わせて取捨選択するアドリブ性が重要なゲームです。

◆実はこのゲーム、○○○○○プレイじゃん!

このゲームは各プレイヤーが引く路線が非対称ということもあり、フリップ&ライトにつきものの、全員が揃って同じ選択をする「このカードならこの選択しかないよねー」という予定調和を防いでいる点に小さいながらもこのゲームならではの発明があると言えるでしょう。

驚くべきことにこのゲームはプレイヤー相互のインタラクションは全くなく、この手のゲームにつきものの早取り要素さえありません。他人を意識する場面は本当に少なく、手元の路線図を睨みながらカードのめくりに一喜一憂する、楽しさに振り切ったゲームと言えます。

そう、実はこのゲーム、多人数ソロプレイなのです。しかしながら、一緒に遊んだ人にそれを伝えると「あれっ!? ……確かにそうだ!」と言われるくらい、ソロプレイらしさのないゲームなのです。

ボードゲームの感想や批評としての「多人数ソロプレイ」という揶揄は、多くの場合ネガティブなベクトルで使われがちな言葉ではあるのですが、このゲームは多人数ソロプレイそのものでありながら多人数ソロプレイにありがちな予定調和感や人工的な冷たさといったものが全く感じられず、むしろ各プレイヤーが好き勝手に「あのカードが出て欲しい!」と騒いでいるだけなんですけども、その空気感にはゲーム空間としてまとまりがある、同じゲームを囲んだプレイヤー同士のやりとりになっている、というのがこのゲームの不思議で興味深いところです。

こうした紙ペンゲームって、紙上の平面管理がゆえに各自の進行状況を確認しにくい作りではあります。それにも関わらず、早取り要素のために「獲得まであと最短であと3手番!」とか「今、リーチしてる人いる!?」とか相互の確認を頻繁に要求するきらいがあり(それはそれで会話のきっかけにもなっているのですけども)、なんやかやでテンポを削いでいる一面も否定できません。

それをザックリと切り捨ててしまったのは驚きのディレクションではあるんですけども、考え方を変えれば、このゲームに早取り要素が存在しないのは、プレイヤーの初期状態が非対称的なためバランスさせるのが難しく採用を放棄しただけなのかもしれません。

まあ、作者や編集者の意図がどうだったのか、こちらにはわかりませんが、結果としてそのディレクションはいい形で着地しているように思いますし、このゲームならではの空気の醸成に一役買っていると思います。

ちなみに、ゲームの根幹がソロプレイ仕様なので当然ながらルールの変更なくソロプレイが遊べます。高得点を目指すスコアアタック形式となりますので、ソロプレイがお好きな方もぜひ試してみて頂ければと思います。

◆「Next Station: London」との違い

先ほども述べたとおり、「ネクストステーション:トーキョー」は「Next Station: London」の姉妹作という位置づけのゲームなのですが、両者にはどのような違いがあるでしょうか?

まず、最も大きなポイントは東京が舞台ということです。マップ中央には山手線っぽいデカデカとした環状線が鎮座し、この山手線との接続がゲームの重要な攻略要素となります。プレイヤーは環状線に連なる全ての駅に地下鉄を接続させる必要があり、これを怠るとゲーム終了時にマイナス点を被ります。

また、東京は環状線近郊だけでなく、郊外にも見どころの多い都市です。マップ四隅の小さな区画に線路を通すことでプレイヤーはボーナス点を獲得することができます。

環状線の内側は駅の数が多く、基礎点を稼ぎやすい作りではあるのですが、外縁に向かうことでボーナス点を獲得できるようになっています。

また、上級モジュールとしては特別駅カードがあります。

これは特定の記号(▢△☆〇)のカードに追加の特殊効果をもたらすルールで、基本的にはよりアッパーでテクニカルなゲームを楽しむことができます。基本ルールに慣れてきた人はこちらもぜひ試してみて欲しいです。

全般的には環状線の扱いが増えたことで、「Next Station: London」よりも0.5歩難易度が上がったゲームと言えるかと思います。とは言え、「Next Station: London」自体はすごくシンプルなゲームですので、こちらも手軽にフリップ&ライトの楽しさを堪能できるゲームとなっています。

完成した東京路線図にあーだこーだと言い合う楽しみはこのゲームならではの味わいだと思います。ぜひ、最高の地下鉄路線網を作り上げてみてください。

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