プレイ人数:4人(2人/3人プレイ用ミニ拡張付き)
プレイ時間:120分~180分
対象年齢:16歳~
小売希望価格:15400円(税込)
◆各プレイヤーがファミリーを受け持つ2vs2のチーム戦
「ラ・ファミリア」は、シチリア島を舞台にしたマフィア同士の抗争をテーマにしています。このゲームにおいてプレイヤーはそれぞれがマフィアのドンとなって一家を率い、同盟ファミリーと手を取り合ってシチリア島の支配を目指します。
本作の大きな特徴は、2vs2のチーム戦という独特の枠組みです。こうしたチーム戦のゲームは軽量級のゲームでは時々目にすることもありますが、重量級のゲームでは極めて珍しい組み立てと言えます。本作には2/3人でも遊べるミニ拡張が付属しますが、本質的には4人で遊ぶゲームではあって、2/3人プレイはどちらかと言えば補助的な位置づけとなります。
ゲーム中、各プレイヤーはそれぞれ1つのファミリーを率い、個別に意思決定を行います。リソースも各自が個別管理するのですが、お金だけは2:1の比率で受け渡しができます(プレイヤーAが銀行に2金払うことで相方のプレイヤーBは銀行から1金を得る、のような感じ)。
プレイヤーが受け持つことができる6種のファミリーは、資金獲得が得意なファミリーや爆弾の扱いに手慣れたファミリーなどそれぞれ得意分野が異なるため、互いの長所を生かしてシナジーを生む作戦行動が勝利の鍵となるでしょう。

◆捻りのあるワーカープレイスメントとダッチオークションの組み合わせ
メインエンジンは、ツイストのあるワーカープレイスメントです。手番の選択肢としては「ワーカーの配置」「影響力の獲得」の2つがあります。
各アクションでプレイヤーは、マップ上に兵隊を置いたり、車やボートといった装備を整えたり、麻薬工場を建設したり、カチコミの「命令」を出したりします。アクションは基本的には即時解決されるのですが、「命令」だけは後述の抗争フェイズで解決されます。
手番の選択肢の一つ、「ワーカーの配置」では上側のシートから任意のワーカーを1つ選んで下側のシートに配置してアクションを実行します。ちょっと変わっているのは自分の色だけでなく他人の色のワーカーもアクションの実行に使うことができる点です。ただし、その場合はその色のプレイヤーに1金を支払う必要があるため、チームメイトにお金を受け渡すような意図でもない限り、基本的には自分の色か中立色のワーカーを使用することになるでしょう。

後者の「影響力の獲得」では、強力な行動タイルをアンロックしたり、各アクションの実行効率を高めることができます。直接的なファミリーの強化に結び付くため、重要なアクションなのですが、利用コストとしてその列のワーカー数に応じたお金を支払う必要があります。

先述の「ワーカーの配置」によってワーカーは徐々に下側のシートに移っていくため、「影響力の獲得」のコストは段々と下がっていく作りになっています。これは言わばダッチオークション的な値付けをされているアクションで、どのタイミングで「影響力の獲得」を「競り落とす」かが重要なポイントとなります。
「影響力の獲得」アクション実行後、その列のワーカーは全て下側のシートに移動します。こうなると、その列の「影響力の実行」は誰も行えなくなります。「影響力の実行」は1ラウンドで最大5回だけ行うことができるので4人のプレイヤーでこのアクションをどう分け合うかが展開の要となるでしょう。
すべてのワーカーが下側のシートに移動したところで計画フェイズは終了します。これはつまり、各プレイヤーのアクション数が不均衡となる可能性が高いことを意味します。
「ワーカーの配置」では1手番ごとに1ワーカーが消費されていきますが、「影響力の獲得」では複数のワーカーがごそっと消費されるため、例えばラウンド開始時に20個のワーカーが存在したとしても全員が5手番ずつ行えるとは限りません。後手番ほどアクション数が少なくなる可能性が高いのです。
逆に「影響力の獲得」の実行によって盤外から利用できるワーカー数が追加される場面もあり、自陣営がより多くアクションを行えるようにコントロールするマネジメントも小技と言えます。特に自分のチームメイトの行動回数を削るような選択はなるべく避けたいものです。
◆「マンダメンティ」の支配権を争う抗争フェイズ
計画フェイズが終わると続いて抗争フェイズが始まります。計画フェイズで「命令」アクションを実施し、命令トークンを配置したプレイヤーだけがこのフェイズに参加します(まあ、基本的には全てのプレイヤーがなんらかの命令トークンを置いていることが多いのですが)。

先ほどの計画フェイズで「命令」アクションを実行した際、プレイヤーは自分の兵隊駒のあるエリアに命令トークンを置くことができます。命令にはリソースを得る「補給命令」と隣接エリアに攻撃を仕掛ける「攻撃命令」の2種類があり、特に重要なのが敵に攻撃を仕掛けてエリアの支配権獲得を目指す「攻撃命令」です。
配置された命令トークンはここですべてが公開され、トークンに記された実行順に沿って効果が解決されます。先手必勝の言葉通り、基本的には先手を取った方が有利です。
命令の結果、複数のファミリーの兵隊が同エリアに居合わせると戦闘が発生します。攻撃側の攻撃力が防御側の防御力を越えている場合、差分だけ防御側の兵隊を取り除くことができます。
結果として防御側の兵隊が全滅した場合はその時点で攻撃側の勝利となるのですが、防御側に生き残りがいた場合、攻撃側はそれぞれ3枚の衝突カードから1枚を選んで複雑なじゃんけんをする「策略」を行うか、損耗を承知で力押しする「暴力」のいずれかを選ぶことになります。
どちらを選んだとしても最終的にはいずれかのファミリーの兵隊がなくなるまで1:1で兵隊を失う消耗戦を行います。令和の世にあって、もはや絶滅危惧種な対消滅プロセス!
時には双方が全滅することもありますが、一度始まってしまった戦争は行きつくところまで行かないと決着しないのですね。これはファミリーのメンツの問題なのです。
さて、全ての命令を解決した後、1人のプレイヤーが5つ以上の「マンダメンティ(3エリアからなる1単位)」を支配するか、1チームで6つ以上のマンダメンティを支配していた場合、そのチームはゲームに勝利します。

ゲームボード上には12個のマンダメンティがあるのでその半数を支配すればゲームに勝利できる計算になります(両チームが同時に達成した場合はBronteエリアを支配しているチームの勝利)。どちらも勝利条件を達成できない場合は、4ラウンド終了時にゲームは終了します。
マンダメンティの支配はゲームの勝利条件でもありますが、さらにマンダメンティを1つ支配するごとにそのチームは「支配タイル」を獲得することができます。支配タイルは「2金を払って自動車駒を配置する」などのフリーアクションや、「モーターボートの攻撃力を+1する」などの常時能力をチームにもたらしてくれます。

基本的には手数が増えたり手番の効率が上がるパワーアップ要素となりますので、相手チームよりも多くのマンダメンティを支配することは、より多くの支配タイルの獲得に繋がり、より有利な戦況を生み出します。
支配タイルの獲得も含めて「いかに効率的にマンダメンティを支配するか?」は、このゲームの要点であり、そこから逆算して必要な行動を選択していけば方向性を誤ることはないでしょう。翻って言えば相手チームも同様のことを考えているでしょうから、相手のマンダメンティ支配を邪魔することも自チームの勝利への貢献となります。非常に多くの要素が詰め込まれたゲームではありますが、マンダメンティ支配を巡る攻防がこのゲームの駆け引きのキモとなります。
◆4人プレイならではのユニークなプレイ感で、マルチが嫌いなあなたにも
ゲーム構造だけを抜き出してみれば古典から続く殴り合いのマルチゲームなのですが、「ラ・ファミリア」では、これをチーム戦に組み替えたことで大きく2つのメリットを生み出しています。
1つ目は殴られても心が折れにくいことで、2つ目は殴るのに躊躇がなくなることです。
よく結婚式で「二人なら悲しみは半分に、喜びは倍に」などと言いますが(これ、元々はドイツの詩人シラーの言葉だそうです)、敵対勢力から殴られたとしても痛みを分かち合う仲間がいるだけで不思議と痛感は和らぐものです。反撃する余力がなくなるほどに痛めつけられたとしても「こっちに敵を引き付けてやったぜ」くらいの負け惜しみも言えるわけです。
逆に、ゲーム上での殴る行為は(いくらゲーム上の手続きでしかないとは言っても)躊躇を覚えてしまう人も少なくないとは思います。ただ、これも「仲間のために」という大義名分が被さると引き金を引く指というものは存外に軽くなってしまうものなのです。うん、殴ろう! 仲間が殴られるその前に!
また、ゲームの勝利条件に関してチームメイトの存在を意識する必要がある箇所として、マンダメンティの支配のルールがあります。
マンダメンティを構成する3エリアのうち、2エリアを支配したプレイヤーがそのマンダメンティの支配者となりますが、これをチーム同士で2:1と分け合うと戦力的には無駄が出るワケです。ですからチーム同士、相談して異なるマンダメンティを支配するのが効率がよく、互いに接しているマンダメンティはどちらかが攻めるかを前もって協議する必要があります。
また、チームメイトが支配するエリアには一切侵入できないので、お互いに侵攻ルートを邪魔しないように動くことも肝要です。例えば、自分の支配しているエリアをチームメイトに譲れば勝利できるぞ、というタイミングがあったとしても、実現するには1度エリアを空にしたうえで改めてチームメイトに支配して貰うといった手続きを踏む必要があります。マフィアもメンツがありますから、チームメイトと言えども他ファミリーをおいそれとシマに踏み込ませるワケにはいかないのでしょう。
また、このゲーム独自のメカニクスとしては、命令トークンの仕組みが効いています。命令トークンの配置は言わば「これから殴るぞ」という予告でもあり、そのエリアを起点とした戦闘が発生することを相手に事前通告する機能を持ちます。
そのため、発生する戦闘はすべて予期されたイベントであり、この手の殴り合いのゲームによくある「不意を突かれて背後から殴られる」という場面がありません。これは、発生する戦闘に納得感を持たせる優れたアイディアと言えます。
配置された命令トークンがその時点では補給命令か攻撃命令かはわからないのもポイントで、時には攻撃に見せかけた補給で相手の注意を引き付け、本命の攻撃は別のエリアに仕掛けるといったような陽動作戦も有効となるでしょう。
とまあ、そこかしこでチーム戦ならではの魅力が光るゲームです。そのため、基本ゲームではプレイ人数が4人専用と極めて制約の強いゲームとなってしまっていますが、ただ、その大胆な割り切りがこのゲームならではのユニークな持ち味に大きく貢献しています。
製品付属のミニ拡張で2人、3人でも遊べるようにはなりましたが、やはり本作のポテンシャルを100%引き出せるのは4人プレイということになるでしょう。
2人プレイでは盤面とは別にマジョリティを争う「クーポラ」の要素が加わり、3人プレイでは1人 vs 2人の対立構造となり、1人側のプレイヤーのアクション数を増やす要素が追加されます。
ゲームの設計や内容物は高品質ながら、テーマやコンセプト、プレイ人数などあらゆる部分において尖りに尖った作品です。そのため、最近の「よくできたゲーム」に食傷気味な人にとって視覚の外からグサッと刺さる鋭さがあります。ルール量は多く、プレイ時間も短くないため、遊びやすいゲームとはお世辞にも言えないのですが、このゲームでしか味わえない楽しさが存分に詰まったびっくり箱のような趣があります。
そもそもがマフィアの抗争というテーマもあって人を選ぶ内容ではあるのですが、運要素が極めて少ないドライなプレイフィールの中にテーマ由来のドンパチを織り交ぜたメリハリが抜群に効いていて、静と動のコントラストがここまで極端なゲームは極めて珍しいです。体験してみること自体に大きな価値のあるゲームと言えるので、ぜひ4人を集めて一度試してみて頂ければと思います。