このエントリーは、テンデイズゲームズスタッフ神田が、自らの視点でゲーム内容を読み解き、紹介していきます。
「ファーストエンパイア」は帝国の指導者となって地球に似た架空の世界で自らの帝国を築き上げることを目的としたゲームです。多くの出版社が帝国主義的なテーマのゲームの出版をためらう昨今において、敢えてそのものズバリなゲームを送り出してくるところに「レス・アルカナ」で人気を博した新興出版社SAND CASTLE GAMESの密かな自信の現われを感じます。
◆ダイス目を元に、地域の支配を目指す
最初にプレイヤーはランダムに文明ボードを選び、対応する探検家駒をマップ上に配置します。これがあなたが指導者となって発展を導いていく文明、帝国となります。
手番において、プレイヤーはダイスを振ります。ダイスには5種のシンボルが描かれていて出た目のシンボルをキープします。
続けてプレイヤーはマップ上の探検家駒を移動させます。マップ上の各地域にはダイスと同じ5種のシンボルが割り振られていて、自分がキープしたダイス目と同じ地域に探検家駒を置いて支配することで、そのシンボルの文明トラックを進めることができます。
文明トラックを進めることでプレイヤーの能力は徐々にパワーアップしていきます。「振ることができるダイスの数」「ダイスを振り直せる回数」「探検家を移動させるポイント数」「得点となる偉業カードの枚数」「マップ上に配置できる探検家の数」の5項目が文明トラックの進展によって強化されていくのです。
ですからこのゲームでやるべきことは実に明確で「まずはダイスを振り、そのダイス目に沿って探検家駒を動かす」ことになります。それぞれの文明トラックを進めるためには「ダイス目1つと支配地域1つのセット」が必要になるので、出たダイス目が素直な行動指針となるのです。
ゲームの序盤ではダイス目に引きずられるように発展トラックを進めるのが精いっぱいかもしれません。しかしながら一度に振ることができるダイスの数が2個、3個と増え、多くの探検隊を移動させることができるようになると帝国の舵取りの選択肢は爆発的に増大します。
今伸ばすべき文明トラックはどれか? 自分に必要なのはダイスか振り直しか探検隊か移動力か? あれも伸ばしたい、これも伸ばしたい。とは言え、ゲームはたった7-8ラウンドで終了してしまうので、取捨選択に悩まされることになります。
「いっぱいダイスを振ったら楽しいし、いっぱいトラックを進められたらなお楽しい」という根源的な快感に根差した拡大再生産がこのゲームの最たる魅力です。基本的には自分の手元、文明ボードをうまく管理することを目指すゲームと言えます。
とは言え、ゲームが進んでくると手元だけに集中するというワケにはいかなくなります。というのは他プレイヤーもあなたと同じように文明を発展させるために様々な地域を支配する理由があるからです。
自分が出したシンボルを持つ地域を他プレイヤーが支配していたとしたら? そう、その地域を奪い取るしかありません。戦争だ!
◆あっという間に世界が塗り替わるライトなマルチ
と、大きく振りかぶってみましたが、実は戦争はこのゲームの中心的な要素ではありません。このゲームは見た目こそプレイヤー同士がお互いの軍勢をぶつけ合って支配地域を奪い合う昔ながらの地政学的マルチなのですが、そのプレイフィールはそれらのタイトルとは大きく異なります。
というのはこのゲームの構造上、支配地域の保持や拡大を頑張る理由があんまりないんですね。あくまでダイス目の都合上、この手番の間だけ支配しなければならない地域が定められるだけで、発展トラックさえ進めてしまえばその地域はもう用済みなワケです。
そんなこともあって、このゲームの各帝国の拡大や縮小は物凄くインスタントで移り変わりが激しく、一方でそれが歴史のダイナミズムを強調しているところにこのテーマならではの魅力があります。この瞬間的な世界地図の移り変わりはマック・ゲルツの「古代」に通じるところがあって、こちらはそれをよりシンプルに抽象的に表現しています。
また、行動方針がダイスで決まる(逆に言えば決まってしまう)のも理不尽さを薄める上でうまい仕組みで、どんな攻撃も「ダイス目だから仕方ない」で納得する/させる作りになっているんですよね。マルチゲームで一番ストレスのかかるポイントは意識外から殴られることなので、同じ殴られるにしてもその理由/原因が明確であれば理不尽さはさほど強くならないのです。
さて、戦争に話を戻して、このゲームの戦闘ルールは極めてシンプルです。相手プレイヤーが配置している探検家駒よりも多い探検家駒を送り込めば自動的に戦闘には勝利し、その地域を支配することができます。
ダイス目の中には戦闘を有利にするシンボルもあるので、そこが戦闘の揺らぎとも言えなくもありませんが、動員できる戦闘力は戦闘前に確定するので後からの逆転要素はありません。基本的には攻撃側が100%イニシアティブを持った作りのゲームです。
敗北したプレイヤーの探検家駒はそのプレイヤーの他の支配地域に退却します。探検家駒がゲームから失われることはないので、敗北はただの一時的な地域の喪失でしかありません。
このように戦闘による損失は殆ど軽微で、プレイ感はとてもカジュアルです。後で地域が必要になるにせよ「その時はまた地域を借りればいいや」くらいの感覚なんですね。うーん、文字通りの租借地。
また、ゲームの勝利点のほとんどは文明トラックに依拠するので、マップから得られる勝利点は実はほとんどなく、なるべくなら戦争は避けた方が得なようにもできています。このゲームは世界の支配者よりも文明の発展者を評価するデザインのゲームなのです。
極端なことを言えば、最終的に支配地域が1つだけしかなくても、文明トラックさえ十分に伸ばせればゲームに勝つことができるゲームなのです。ですからプレイヤーは他プレイヤーの帝国との駆け引きよりも、自分の帝国の発展をどうコントロールするかで頭を悩ませることになります。この辺りのインタラクションの持たせ方は実に現代的ですね。
このように「ファーストエンパイア」においては、ゲーム要素の殆どが予見可能性の高い静的な展開を指向しているのですが、予定調和を裏切る要素が一つだけスパイスのように振りかけられています。
それが「偉業カード」の存在です。このカードは「他プレイヤーの初期地域を支配せよ」「隣接する3つの地域を支配せよ」といった指令が書かれていて、指令を達成することで大きな勝利点を得ることができます。この偉業カードは個々人が持っている隠し目標で、かつ得点源としても優秀なので、予想外の攻撃を突然受ける場合もあるにはあります。
とは言え、前述のように文明の発展が最優先のゲームなので、ダイス目に逆らってまで仕掛ける攻撃に価値があるかどうかは難しいところです。ダイスの目標を満たしつつ、偉業カードも達成できればベストですね。
◆モダンな思想を持つ60分の文明ゲーム
「ファーストエンパイア」は今や希少種とすら言ってもいい帝国主義的なウォーゲームの皮を被りながら、極めて現代的な思想の下で洗練されたマルチゲームで、実にユニークな立ち位置のゲームと言えます。
一方で手元の個人ボードの管理、能力の成長も楽しいところで、各種文明トラックの発展がプレイヤーの能力強化に直接繋がっているので、ゲームの進展に伴う拡大再生産の快感を素直に楽しめるようになっています。
拡大再生産で生まれた優勢の差をトップ叩きで均す、というのが拡大再生産とマルチゲームの組み合わせの基礎フレームではありますが、このゲームではトップ叩きの要素は薄く、他プレイヤーの存在を、激しく競い合う対戦相手というよりは目標を達成する上での障害物のように扱っていて、人間同士が争い合う生々しさを中和しているようにも思います。
その分、序盤にリードしたプレイヤーを止めることは構造上、難しいところがあります。ここは快適さとのトレードオフなので、好みが分かれるところかもしれませんが、現代の多くのプレイヤーはこのベクトルを支持するものと思います。
また、この手のゲームはどうしてもプレイ時間が延びがちではありますが、本作は60分という手頃なサイズにまとめ上げているのも白眉な点です。十分な遊びごたえがありながらルールはシンプルでストレスも少ない、まさに文明テーマのゲームの入門編、「ファーストエンパイア」というタイトルにふさわしい一作と言えるでしょう。
「ファーストエンパイア」は、12月21日発売予定です。