「クロノロジック:パリ 1920」において、プレイヤーは時空を飛び越える捜査官となり、第一次世界大戦終結の2年後、1920年当時のパリのオペラ座で起きた様々な事件をいち早く解決することを目指します。
このゲームは捜査によって得られた情報を付属のメモシートに書き込んで消去法的に情報を整理する「クルー(1949)」の文脈に連なる論理推理ゲームの最新版です。その中でも捜査の方法が特徴的で、付属の人物タイル or 時間タイルを場所カードと組み合わせることで一意の情報が浮かび上がってくるギミックは簡潔な仕組みながらおもちゃ的な不思議さ、面白さがあります。
それもそのはず、作者のFabien GridelとYoann Levetは、「チューリングマシン(2022)」で一躍名を上げたコンビで、こういったギミック仕掛けの論理推理ゲームを得意としています。作者のうちYoann Levetは「アーキオロジック(2023)」の作者でもあるため、どちらかと言えばYoann Levetの方がギミック担当なのかもしれません(あと、論理推理ゲームではありませんが、最近日本語版が出版されたYoann Levetの「ヒューマニティ計画(2023)」もぐるぐる動くアームのギミックが特徴的なゲームです)。
◆カード&タイルのギミックを活かして真相を暴く
さて、プレイヤーは手番に「場所カード」を1枚選び、さらに「時間タイル」or「人物タイル」と組み合わせることで各人のアリバイを捜査します。
「場所カード&時間タイル」であれば「その時間&その場所にいた人物」と「その時間&その場所にいた人数」がわかります。
「場所カード&人物タイル」であれば「その人物がその場所を訪れた回数」と「その人物がその場所を訪れた時間」がわかります。
こうした捜査によって得られる情報には、手番プレイヤーだけが得られる個人情報と、全プレイヤーに伝える必要がある共通情報の2つの情報があります。手番プレイヤーは個人情報を密かにメモりつつ、大きな声で全員に共通情報を伝えましょう。
この個人情報と共通情報の兼ね合いにより、1回の捜査で手番プレイヤーだけが情報を得るのではなく、全体の情報量の総量が増えるのが作りとして巧みな部分です。手番プレイヤーの優位性、選択の重要性を演出しながらも、それ以外のプレイヤーも置き去りにしない手心があり、なおかつゲームを確実に終了に向けて前進させる収束性を担保しています。
こうして情報を獲得、整理していくことでいち早く事件の真相を探り当てるのがゲームの大目的となります。事件はシンプルに単独犯を当てるものや、犯行時間や犯行現場まで当てる必要があるものなど、シナリオによって大枠が変わってきます。
製品には3種のシナリオが同梱され、かつ各シナリオでは5つの事件が遊べます。難易度も☆1から☆5までの5段階がありますので、簡単なところから肩を慣らして最終的には全事件の解決を目指して頂ければと思います。
ちょっとだけ捜査のコツをお伝えしておくと、「事件に登場する各人物は時間ごとに必ず場所を移動する」ことと、「時間帯は全部で6つしかない」というゲームの大枠を念頭に置いておくと情報が格段に整理しやすくなります。
例えば、時間2において探偵が大ホールにいたのであれば、消去法によって前後の時間である時間1や時間3では探偵は大ホールには絶対にいないことがわかります。
さらに捜査を進める中で探偵が大ホールに3回いたことがわかれば、探偵は時間2と時間4と時間6に大ホールにいたこともわかります。なぜなら時間帯は全部で6つしかなく、時間2にいる探偵が大ホールをあと2回訪れるためには時間4と時間6で大ホールを訪れるしかないためです。
こうした「ルールブックに記述されていないルール」は推理を補助する材料となります。他にもいろいろな気づきが用意されているゲームなので、様々な角度から推理を働かせてみてください。
また、キーとなる人物のアリバイをねちっこく調べていくのは捜査の王道ですが、他のプレイヤーのそうした初動方針を見越して、逆に周辺から洗い出していくのも意外といい戦略だったりします。クリティカルな情報がどこに転がっているかはわからないので、一見すると価値の低そうな、しかし自分だけが知っているネタが終盤の詰めの局面で大きな武器になる場合もあります。
◆悩ましさと遊びやすさのバランスの良さで、もう1ゲームを遊びたくなる
強固な骨組みを持つ論理推理ゲームの要点を抑えながら、おもちゃのような楽しさを備えた独自のギミックを組み合わせた点がこのゲームの大きな魅力です。それでいてギミック自体にも説得力があり、かつ扱いやすいバランスの良さも見逃せません。
とかく捻りのあるギミックを持ち込んだゲームは、ギミックを扱わせるためにプレイアビリティが犠牲になることもままありますが、このゲームのカードとタイルの組み合わせはシンプルで出しゃばりすぎず、プレイのテンポを損なうことがありません。簡潔で要点を抑えた「ゲームに奉仕するギミック」で、本筋であるところの論理パズルを邪魔せず思索に没頭できるバランスが遊んでて実に心地よいです。
また、3つのシナリオは単純に難易度の区分けだけでなく、そのシナリオ特有のルールの変化が加わるため、予想以上に推理の土台に変化があります。やはり後半のシナリオほど網羅的に調べる必要が出てくるのですが、ここで他プレイヤーから漏れ出す情報をうまく利用して手番を節約できると強い…… 徐々にゲームに勝つためのテクニックが求められるような作りになっているのも巧みですね。
また、ゲームの物語性自体はそこまで濃くはないのですが、パリのオペラ座を舞台にした事件捜査という建付けが、ノンテーマで無機質になりがちなこの手の論理推理ゲームにおいてはちょっとホッとする部分です。アートワークが適度な柔らかさをもたらしてくれるので、そういう意味でも誰にでも勧めやすい、論理推理ゲームの入門作としても機能する作品なのではないかと思います。
最後にちょこっとだけこぼれ話。ゲームの登場人物はメモ用の記号として役柄の頭文字が一文字振られています。
それぞれ、冒険家=A(dventurer)、男爵夫人=B(aroness)、運転手=C(hauffeur)、探偵=D(etective)、記者=J(ournalist)、使用人=S(ervant)となっています。多くの登場人物は英語の役柄の頭文字を取っているのですが、運転手だけはフランス語のChauffeurから来ていて、これは英語のDriverを採ると探偵とDが被ってしまうから……なのかもしれません。
プレイ中「この略称なんだっけ?」と首を傾げる場面があるかもしれませんが、これを思い出して貰えると思考の整理に少し役立つかもしれません。画数は多くなりますが、パッと見の情報量が増える漢字(冒男運探記使)でメモする、という技もアリでしょう。