ゲームデザイン:Yaniv Kahana、Simone Luciani
プレイ人数:2人~5人
対象年齢:10歳以上
プレイ時間:30分
「メソス」は、原始時代の部族の長となり、オープンドラフトを通して様々なカードを獲得して勝利を目指すゲームです。部族カードや建物カードの獲得によって部族は拡大しますが、同時に部族を養うための食料負担も増加していきます。3つの時代で構成された全10ラウンドの中で、どのように部族を発展させていくか、また、部族の拡大に伴う食料消費量の増加をどうバランシングするかがこのゲームの重要なポイントです。
◆シンプルでジレンマ豊富なオープンドラフト
各ラウンドではプレイ人数+4枚のカードが新しく公開され、プレイヤーは手番順に提示トラック上の各スペースにトーテム駒を置くことでカードを獲得していきます。この時、トーテムの配置場所によって「獲得できるカードの枚数」と「カードを獲得する順番」と「次ラウンドの手番順」が一挙に決まります。
基本的にはカードをなるべく多く獲得しようとすると獲得順や手番順は遅くなり、獲得順や手番順を早めようとすれば獲得できるカード枚数は少なくなる、というわかりやすいジレンマで構成されています。量と速さ、どちらが大事か?
「このカードだけは欲しいから、1枚だけど、この辺りで妥協するか……」とか、「自分が集めているカードは誰も欲しがらないだろうから、ちょっと欲張っても大丈夫かな……」とか、状況が明確なだけに損得が明瞭で、他の人の一手にも「なるほど、そう来たか!」と思わず唸ってしまう、そんな緊迫した駆け引きが常に展開されます。
選んだ順番によっては食料のボーナス/ペナルティもあり、このオマケ食料の存在も判断を悩ましくさせています。部族を食わせるために欲しいカードをスルーして、やむなくオマケ食料をかき集める切ない族長の姿もあったりして。
来たる食料供給イベントでは部族カード1枚につき1食料を支払う必要があるため、どう食料を都合するか、普段から気を使う必要があります。
さて、獲得できるカードの大半は部族を増やす「部族カード」で、種類は全部で6種類。それぞれが異なる方法で部族に食料や名声をもたらしてくれます。獲得したカードは自分の手前に並べて置くのですが、ゲームを通してそれらの効果は累積するため、カードを獲得すればするほど部族は強力に成長していくタブロービルドの要素を持っています。
「狩人」は、食料を獲得できるカードです。狩人には食料アイコンが描かれているものと描かれていないものの2種類があり、食料アイコンつきの狩人はアイコンなしの上位互換です。狩人の効果は「食料アイコンが描かれた狩人を獲得した瞬間、獲得済みの狩人の数に等しい食料を得る」なので、起動のキーとなる食料アイコンつき狩人は特に重要で、争奪戦も激しくなります。
「採集者」は、「狩人」のように直接食料を得ることはありませんが、食料供給イベントでの支払いを3食料分軽減してくれるカードです。このカード自体が1食料の負担を持つので実質的には2食料の軽減を意味してはいますが、長期的に部族の財政事情を下支えしてくれるカードと言えます。
「シャーマン」は、1つから3つの☆アイコンを持ったカードです。このカードは主に名声を部族に与えるカードで、時おり発生する「シャーマンの儀式」イベントで☆のマジョリティ比べを行い、最多の部族に名声点を与え、最少の部族にペナルティを与えます。他プレイヤーとの相対的な☆の数が重要なため、集め方の塩梅が難しいカードと言えましょう。
「芸術家」は、「シャーマン」のように名声を得られるカードで、こちらは「洞窟壁画」イベントにおいて、枚数に応じた名声点を得たり、失ったりします。さらにゲーム終了時には「芸術家」2枚ごとに10点の名声点が入るので、ちょうど偶数枚だけ集めたいカードでもあります。
「発明家」は、セットコレクション式で名声を得るカードで、ゲーム終了時に「発明家の数 * カードそれぞれの発明アイコンの数」の名声点がドカンと入ります。この手のセットコレクションとして珍しいのは、重複する発明アイコンを獲得した時、2セット目のコレクションを始めるのではなく、得点の倍率を高める点です。なので、発明家は集めれば集めるほど得点が伸びる…… 時にはゲーム中に抱えたマイナス点を吹き飛ばすだけの爆発力を抱えています。
「建築者」は、部族に特殊能力やボーナス得点を与える「建物カード」の食料コストを軽減するカードです。建物カードはどれも強力なのですが、獲得コストとして食料を要求されるのが難点…… しかし、「建築者」を集めることで負担が軽減され、建物カードを中心に据えた戦略を立てることもできます。また、カード自体にオマケの名声点もついています。
これら6種類のカードをどのように集めるかがプレイヤーの腕の見せ所です。基本的にはどの部族カードも獲得するメリットが大きいのですが、比例して食料供給の難度も上がっていくのでアクセルの踏み方が悩ましいところです。
◆細かいルールが随所に効いた味わい深さが妙味
「メソス」はシンプルながら気の利いたツイストが数多く、遊んでみるとしみじみと良さがわかるタイプのゲームです。
例えば、先ほどは単純に、手番ではカードを獲得する順番を決めるとお伝えしたのですが、実際には「上の段からX枚、下の段からY枚のカードを獲得する」組み合わせを選ぶ形になります。スペースによっては上の段 or 下の段からしかカードを取れないものもあり、これがまた悩ましいんです。
各ラウンドで補充されるカードは常に上の段に置かれ、誰も獲得しなかったカードはラウンド終了時に下の段に送られます。そのため、基本的には上の段のカードの方が価値が高く、下の段のカードは余りものの意味合いを含みます。ちなみに下の段に置かれたものの誰も獲得しなかったカードは流れて捨て札になってしまいます。
また、食料供給を含む「イベントカード」は全4種類があり、各時代でそれぞれ1枚が登場するため、ゲーム中には全イベントが必ず3回ずつ発生します(このうち「食料供給」と「シャーマンの儀式」の3回目は最終ラウンドで必ず発生)。
「イベントカード」は部族カードと混ざっているため、最初は必ず上段に置かれます。この瞬間にはイベントは発生しません。今のところはイベント発生を予告するだけです。
イベントが発生するのは、流れて捨て札になった瞬間です。つまり、イベントカードが登場したラウンドを含めて2ラウンドが経過したタイミングでイベントは発生するのです。
イベントの登場から発生までは多少のタイムラグがあるので、その間、イベントに関係するカードを集めるのは効率的な選択と言えます。逆に言えば、イベントの公開中は対応するカードの価値が高まるので奪い合いも激しくなることに注意が必要です。
こうした細かいルールが絡み合うとともに、各人の狙いが明瞭なことも合わさって、一見してよくあるオープンドラフトのゲームに見えつつもプレイ感としてはメリハリがあり、かつ、勝敗に納得感や説得力のある完成度の高いゲームに仕上がっています。
飛び交うトークンの数がインフレ気味なのも景気がよくていい感じです。最初はじんわりとしたやりとりから始まるんですが、気づいてみると多数の部族を養わなければならなくなっていた自分の身に驚かされたりと、見ているはずなのに気づかない数値の飛躍がサプライズを感じさせてくれます。この辺りの数値の扱いにはかなりのデベロップの練度を感じます。ペロッ、これはルチアーニの味!
そう、「メソス」は「海鳴りのドラゴン(2023)」でトリオを組んだ作者陣3人のうち、Yaniv Kahanaとシモーネ・ルチアーニの共作なのです。箱にはYaniv Kahanaの名前が先に記載されていることから、メインデザインをYaniv Kahanaが行い、ルチアーニはその補筆を務めたという座組になるのでしょう。
実際の作業比率がどの程度かはこちらにはわからないのですが、ディベロッパーとしてのルチアーニの手腕、やはり凡庸とはかけ離れた技術を感じさせてくれます。ご家庭でも作れる一皿を小さじ1/2の加減でレストランの味に仕上げてみせる、そんな凄みがあります。
日頃、それなりにゲームのルールを読んでいることもあるせいか、実際ゲームを遊んでみても「ルール読みで感じた通りの内容だったなあ」というゲームは珍しくないのですが、「メソス」は最初のルール読みではピンと来なかったものの、実際に遊んでみると予想外に仕上げの丁寧さや深みをグッと感じたタイトルでした。「こういうゲームこそ、多くの方に遊んで貰いたい!」と強く思った作品なので、ぜひ、一度お試ししてみてください。