ゲーム紹介:テケン:太陽のオベリスク(Tekhenu: Obelisk of the Sun / Daniele Tascini, David Turzi / Board&Dice / 2020)

パッケージにも燦然と輝くオベリスク

「さまざまな要素が組み合わされた戦略ゲームです」
ボードゲームをよく遊ばれている方は、ネット上でレビューなどを読んだ時に、このような一文を目にしたことは一度や二度ではないでしょう。
「テケン:太陽のオベリスク」、まさに「さまざまな要素が組み合わされた戦略ゲーム」なのですが、そのほかのゲームを一笑に付するような、そんな究極のごった煮感を持った、圧倒的な「さまざまな要素が組み合わされた戦略ゲーム」なのです。

ゲームデザイナーは、ルチアーニとの共作「ツォルキン」、「マルコポーロの旅路」や「テオティワカン」などでお馴染みのダニエレ・タスチーニと、「アナクロニー」、「ダイスセトラーズ」のTurczi(すみません。読みがよくわかりません)。

プレイヤーは、古代エジプトの貴族となり、彫像や円柱を神殿に建て、生産力を上げたり、人口を増やし-そして住民の幸福度にも気を配りながら-、都市を発展させていく中で得点を競います。
王道とも言えるゲーム背景を、タスチーニたちはどのように圧倒的なごった煮感を持ったゲームに仕上げたのでしょうか。

基本となるのはダイスドラフト-そしてオベリスクの影

まずは、ゲームの基本的な進め方を見ていきましょう。
ゲームの中核をなすシステムは、ボード上に置かれたダイスを選び取り、アクションを実行する「ダイスドラフト」です。
プレイヤーは、手番ごとにダイスを選び取り、さまざまな特殊効果を持つ「神アクション」か「資源の生産」を行うことになります。
このとき、「神アクション」の場合は、選んだダイスが置かれていた区画に応じたアクションをダイスの目に従って行うことになり、「資源の生産」ではダイスの色に応じた資源をダイスの目の数だけ生産することになります。

オベリスクが目を引くゲームボード

このとき、「テケン:太陽のオベリスク」では、もう一つ重要となる要素があります。
ゲームボード上にひときわ目立つ形で建てられたオベリスクの影による影響です。
オベリスクの周囲を取り囲むようにダイスを置く区画が用意されているのですが、それぞれの区画は、ターンごとに日向、薄暗がり、日陰に分けられ、ダイスの色によって、ダイスはさらに純潔なダイス、汚れているダイス、禁じられたダイスに分けられるのです。
禁じられたダイスは選び取ることが出来ず、純潔なダイスと汚れているダイスは、アクションを実行したのちに、各プレイヤーボードに用意された天秤の対応するいずれかの皿に置かれることになります。
この天秤の左右のバランスは、ゲーム中にチェックする場面があり、いずれか一方に偏っていると、得点にペナルティを受けたり、手番順が遅くなることになります。
すなわち、ダイスを選び取る際には、置かれる皿を踏まえ、天秤の左右のバランスも考慮することが重要となるのです。
アクションの内容や質を優先させるのか、天秤のバランスを優先させるのか。
ただでさえ悩ましいダイス選びが、さらに一段、二段、悩ましいものになっています。

オベリスクの影による影響は、単に天秤のバランスの悩ましさを増すに留まりません。
影は時間の経過と共に-つまりゲーム進行と共に-動くことになります。
このことにより、(選び取ることの出来なかった)禁じられたダイスが、ゲームが進むと選び取れるように、またはその逆で選ぶことのできていたダイスが選び取れなくなるようになることを意味しています。
影によってダイスが受ける影響はボード上から読み取れるため、先を見据えた戦略を持たせることにも成功していると言えるでしょう。

ダイスドラフトが基本となるだけに「テケン:太陽のオベリスク」においてダイス選びは非常に重要な要素ではあるのですが、重量級のゲームだけに、ただ翻弄されるだけのゲームではありません。
ゲーム中に得ることのできる「書記官」を支払うことで、ダイスの目を増減したり、影の影響や区画を踏まえずにダイスを選び取ることでできるのです。
ゲームを通して非常に価値の高い「書記官」をどう獲得し、どう活用していくかもまたとても重要なのです。

それぞれが濃密なさまざまな神アクション

ダイスを選んだら、神アクションの実行です。
「テケン:太陽のオベリスク」において、神アクションひとつとっても、いずれも濃厚。
単に駒を置く、カードを取るというようなことだけでなく、「どう置くのか」というような選択や、あるアクションの効果がのちの他の効果に及ぼす影響がとても大きいことも多いことなどから、ひとつひとつがとても悩ましいものになっているのです。
そんなわけで、ここですべてを語るのはとても難しいため、特徴的なアクションを中心に、ざっとではありますが、紹介していきたいと思います。

まずは、「彫像の建設」を行うホルスアクション。
資源を支払い、彫像を建てる-と聞くととても単純なアクションですが、どこに建て、どのような効果を狙うかの選択肢が多岐にわたり、これだけでもめちゃくちゃに悩ましいアクションなのです。
具体的な選択肢としては、主に「オベリスクの周りに建てる」か「神殿複合体に建てる」か「工房か石切場に建てる」の三つ。
オベリスクの周りに建てた場合は、その彫像が置かれた区画のアクションを誰かが実行した時に(「おこぼれ」のような)恩恵を得ることができます。
神殿複合体に建てた場合は、「円柱の建設」を行うラーアクションとの組み合わせにより得点を狙うことができます。
工房か石切場に建てた場合は、それぞれの場所での建設数を競う-そしてそれによっての得点を獲得出来る-マジョリティ争いで優位に立つことができます。
「彫像を建てる」だけでも、その時に踏まえるべき要素や、その先に見据えるべき展開は、とても幅広いのです。

続いて、神殿複合体内に「円柱を建てる」ラーアクション。
ダイス目に応じて、建てるタイルを選び、資源を支払い、円柱を建てることになります。
このアクションでは、パズル的な思考を問われることになります。
神殿複合体内は、5×5のグリッドになっており、建てる場所によって得点や資源を得られることになります。
また、加えて、タイルのフチは色分けされており、神殿複合体内の外周やすでに配置済みの他のタイルのフチの色と合わせることで、より高い得点を獲得することができるようになっています。
そのため、どこに建てるかを考える時に、グリッド上の位置だけでなく、ゲームごとに異なることになるタイルの配置状況を踏まえる必要があるのです。
そのほか、建てるタイミングによって得られるボーナスや、前述の彫像や、後述のハトホルアクションによる建物との絡みによって得られる得点もあり、どれを狙っていくか。これもまたとても悩ましいのです。

円柱を建てる際には場所、タイルの向きが超重要(円柱駒の上下が逆です。すみません)

続いては、「建物の建設」ハトホルアクション。
神殿複合体内の外側に用意されたマスに建物を建設し、得点に繋がるアクションで、「テケン:太陽のオベリスク」において、比較的オーソドックスなものになっています。
とはいえ、それぞれのマスは、建物がひとつしか建てられないことによる早取りの駆け引きや、建物を建てることで増える人口は、他の要素にも関わってくるため、決して軽んじることはできません。

人々が増えたら幸福度にも気を配らなければなりません。
彼らの幸福度を上げるのはバステトアクションです。
いわゆる「パラメータ上げ」の要素となるバステトアクション、選んだダイス目の数だけ幸福度を上げ、どこまで到達したか(しているか)によって、ボーナスを得ることができます。さらに、後述のトトアクションにおいて選択肢を増やすためににも非常な重要な要素なります。
しかし、上げることができるのは人口と等しい数まで。
前述のハトホルアクションとのバランスも重要となるのです。

人口と幸福度

続いて、「カードの獲得」トトアクションです。
「テケン:太陽のオベリスク」に用意されたカードは、即時効果「祝福カード」、持続効果「技術カード」、最終ボーナス「布告カード」の三種類。
これらのカードをボード上から獲得することになります。
このとき、前述の幸福度が極めて重要になります。
ボード上のカード市場は4つの区画にわけられ、どこから得られるか、その選択肢の広さは幸福度に比例しているのです。
しかも、カード市場の区画によっては、選べないカードの種類があり、例えば、最終ボーナス「布告カード」は展開によって極めて多きな得点が狙えるものの、幸福度を上げていなければ、そもそも獲得することができないのです。
もちろん、布告カードのみならず、「祝福カード」や「技術カード」もおろそかにすることができないのが「テケン:太陽のオベリスク」の難しいところであり、面白いところ。
というのも、このゲームでの手番数は16。16アクションしか行えないのです。
限られたアクション数の中での即時効果や持続効果(アクションを増やせるものもあり)は、使い方によっては、ゲーム終了時の大きなボーナス得点以上の効果をもたらすのは言うまでもありません。
これらのカードは、ほぼユニークと言ってもいいくらいの種類となっていることも相まって、選択肢の広さは狙ったカードを取るために、非常に重要なのです。

カード市場にはさまざまなカードが並ぶ

最後の神アクションは「工房、石切場の建設」オシリスアクションです。
いわゆる「拡大再生産」的な要素を担う箇所となっており、建物を建てることで、メインとなるリソース4つの生産許容量を上げることができます。
「テケン:太陽のオベリスク」では、選んだダイス目の分、資源を生産できるのですが、獲得できるのは工房、石切場の建設数に応じた生産許容量までとなり、超えた分は獲得できないばかりか、天秤のバランスを崩し、ペナルティに繋がる場合があります。
そのため、さまざまなアクションで充分な支払うコストのために、また、ペナルティを避けるために、一回の資源の生産アクションの質を高めるオシリスアクションは、やはり軽視することはできないのです。
加えて、それぞれの工房、石切場に建てた建物の数を競うマジョリティー争いの要素があり、ほかのプレイヤーの動向に気を配る必要もあるのです。

マジョリティを意識しつつ生産力を上げる

驚きの盛り込みっぷり!

神アクションを一通り見てみたところで、もう一度、各要素をざっと見てみましょう。

・基本的なゲームプレイ
ダイスドラフト、リソース獲得、技術カードなどの特殊効果

・神アクション
‐ホルスアクション(彫像の建設)
他プレイヤーへのアクション便乗、マジョリティ争いへのアプローチ、得点へのアプローチ

‐ラーアクション(円柱の建設)
タイル配置パズル、得点へのアプローチ

‐ハトホルアクション(建物の建設)
パラメータ上げ、得点へのアプローチ

‐バステトアクション(幸福度アップ)
パラメータ上げ、カード獲得の際の選択肢アップ、得点へのアプローチ

‐トトアクション(カード獲得)
特殊カード獲得(即時効果、永続効果、最終ボーナス)

‐オシリスアクション(建物の建設)
拡大再生産、場所の早取り、マジョリティ争い

本当にざっと挙げただけでもこのように多岐にわたっています。
ダイスドラフトではダイスの置かれている場所、その目がもちろん重要となるのは、前述したとおりですし、加えて、ほとんどのアクションではさまざまなリソースを要求されることになり、そのリソース管理はもちろん重要です。
また、すでにさまざまなところで述べているように、多くの要素が異なる要素に影響を与えたり、与えられたりと、綿密にからみあっているのです。
これらを16回という少ない手番の中で、かつ、オベリスクの影や、天秤のバランスに翻弄、気を配りながら、効率よく行い、絡み合った要素の糸を解きほぐすようにアクションを組み立てていく面白さはたまらないものがあります。
冒頭に書いた「究極のごった煮」感は、しかし、決してなんでもかんでも放り込んだような雑なものではなく、緻密に混じり合った上でのものであることには驚かされるはずです。

今、体験すべき価値のあるゲーム

さまざまな要素が組み合わされたゲームは、今や、ボードゲームの王道的なものであり、決して珍しいものではありません。
しかし、ここまで多岐にわたった要素が盛り込まれ、ここまで綿密に組み上げられたゲームは、極めて少ないと言って間違いないでしょう。
人によっては明らかに要素が多く、「トゥーマッチ」だと感じる人も少なくないはずです。
しかし、数多くの重厚なユーロゲームを発表し、人気となっているタスチーニが、どのようにこれだけの要素をまとめ上げたのか、それを味わうだけでも十分に遊ぶ価値のあるゲームだと思います。
ボタンカーメン(ボット+ツタンカーメン)との対戦形式のソロプレイルールも用意され、抜かりなし。
大げさでなく、現代的なボードゲームのある種の到達点と言える作品かもしれません。
「テケン:太陽のオベリスク」、2020年夏、もっとも注目すべきタイトルと自信を持ってオススメする一作です。

ちなみに私は、テストプレイがあまりに面白く、そのあと、同じ日にさらに二回連続で遊んでしまいました。

テケン:太陽のオベリスク
プレイ人数:1~4人(1人ゲームは対ボット戦)
対象年齢:14歳~
プレイ時間:60~120分
ルール:32ページ

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