【スタッフ神田の視点】タバヌシ

 このエントリーは、テンデイズゲームズスタッフ神田が、自らの視点でゲーム内容を読み解き、紹介していきます

◆ウルの街で最高の建築士を目指す

 「タバヌシ:ウルの建築士たち」は、「ツォルキン」「テオティワカン」「テケン」など複雑かつ独創性のあるゲーマーズゲームで知られるDaniele TasciniのTシリーズ最新作です。Simone Luciani、Dávid Turczi、Federico Pierlorenziなどパートナーにも恵まれる彼は、今回は新人David Spadaとタッグを組んで新境地の開拓を図りました。
 「タバヌシ」において、プレイヤーは大建築士となり、5つの区画に分かれたウルの都市建築に従事します。プレイヤーは、家を立て、庭園を造り、港を支配し、ジッグラドに祭壇を建築し、ウルで最も偉大なる建築士になることを目的とします。
 このゲームは、独特なダイスの扱いによるゲームエンジンを主軸に据えたゲーマーズゲームで、モダンゲームらしい高度な計画性を要求しつつも、古典的かつ濃厚なインタラクションを備えた、贅沢でハイカロリーなゲームです。Tasciniの諸作を楽しんでいる方でも新鮮さを感じられる一風変わったゲームと言えましょう。
 ちなみに表題の「タバヌシ」は、シュメール語でいうところのBuild、つまり建築を意味する言葉だそうで、全部日本語にすると「建築:ウルの建築士たち」という意味になるようです。サルサソースみたいですね。

◆ダイスピックで移動先が決まる独特のエンジン

 さて、Board&Diceで出版された「テオティワカン」「テケン」において独特なダイスの扱いを見せたTasciniは、この「タバヌシ」においてもその手腕を存分に発揮しています。
 ゲームの舞台となるウルの街は5つの区画に分割されています。それぞれの区画には対応する色のダイスが規定数配置され、プレイヤーはそのうち1つをピックして区画に対応するアクションを行います。ピックされたダイスはそれ自体がリソースとなり、以降のアクションのコストとして用いられます。
 しかしながら! 初手こそ自由にダイスをピックできるものの、2手目以降のダイスピックからは強烈な制限がかかってきます。それは、ピックしたダイス目によって次に選択できる区画が決まってしまうという縛りです。
 先程、ウルの街は5つの区画に分割されていると述べましたが、ダイス目1~5は、それぞれ区画1~5に対応しているんですね。なので、出目1のダイスをピックしたら次回のアクションでは区画1でダイスをピックしてアクションすることが確定してしまうのです。
 当然、次のアクションで選択したダイスによって次次回の区画も決まりますし、その結果、次次次回の区画も……となるため、プレイヤーは常に2手3手先を読む計画性を求められます。今やりたいアクションと次にやりたいアクションをどう折り合わせるかがこのゲームの最初のジレンマと言っていいでしょう。
 ちなみに出目6のダイスは「場にないダイス目として扱える」特殊なダイスです。場にあるダイスが少なくなるほど使える幅が広くなるという扱いは、細かいながら工夫の効いたルールです。
 また、オールマイティな資源「黄金」を支払うことでダイス目の制約を一時的に無視することもできます。とは言え、「黄金」は大事な資源なので、基本的にはダイス目の流れに乗って計画を実行する必要があるでしょう。

◆濃厚なインタラクション。計画? 建築? それとも庭園?

 さて、このゲームは、一言で言えば、リソースを集めて建物を建築することで勝利を目指すリソースマネジメントゲームです。戦略ゲームとしては極めて王道的な組み立てとも言える本作ですが、作者はそこに大きなツイストを持ち込みました。
 それは建物の建築を「計画」と「建築」の二段階の工程に分割したことです。しかも、これは単純に工程を増やしただけではなく、「計画」と「建築」がそれぞれ違うプレイヤーによって行われることもある、という所有権の分割をもツイストとして持ち込んでいるのです
 プレイヤーAが「計画」した建築予定地にプレイヤーBが建物を「建築」するというような、協力、相乗りのインタラクションがこのゲームでは頻繁に発生します。「計画」と「建築」両方を自分1人で行うこともできるのですが、自分で「計画」した建築予定地に建物を「建築」する場合、余分なコストがかかる縛りがあるため、基本的には
・自分が「計画」した建築予定地に他人に建物を「建築」してもらう
・他人が「計画」した建築予定地に自分が建物を「建築」させてもらう
のいずれかが効率的な動き方になります。最終的には自分の所有する建物をボード上により多く建てたいのですが、建物の建築に絡むこと自体に特有のメリットがあるため、他人との相乗りを積極的に狙っていく方がよい結果に結びつく場合が多いです。
 こうした他プレイヤーとの濃厚な絡み合いは二次産業をベースとした経済ゲームではしばし散見されるのですが、このような建築ゲームではなかなか珍しい仕組みです。
 Tasciniの諸作を見ても、例えば「テオティワカン」などはピラミッドの建築次第で他プレイヤーにチャンスを与えるトスのインタラクションがありましたが、他プレイヤーの介在をここまで強烈に意識させるメカニクスではありませんでした。あるいはこれはパートナーのDavid Spadaの持ち味なのかもしれません。
 さらにこのゲームでは、これらの建築のインタラクションをより悩ましくさせる「庭園」という要素もあります。これは独自のアクションによって区画上に配置することができるタイルです。
 庭園は、その周囲の建物により多くの得点機会を与えるため、庭園に隣接させて建物を建築できれば単純にオトクです。しかしながら、そうして建物を建築した場合、庭園の持ち主にも特有のボーナスが与えられます。
 つまり、庭園の持ち主と建物の建築主、両方が庭園に隣接させて建物を建築するメリットがあるのですね。
 どちらも自分のものであれば話は簡単ですが、それぞれ持ち主が異なる場合、自分が得るメリットと他人に与えるメリットを勘案する局面も生まれます。このように自分と他人の利益についてとにかく考える機会が多いゲームなのです。このインタラクションの濃密さはこのゲームの特筆すべき点の一つでしょう。

◆優先すべきは建物? 船? ジッグラト?

 さて、ゲームのメインとなる得点行動は先述の建物の建築です。これは5つに分割された区画のうち3つの区画において実行できる行動で、残りの2つの区画、港とジッグラドではまた異なる要素が用意されています。
 港区画では、資源の変換を容易にする木箱タイルを獲得できたり、持続能力をプレイヤーにもたらす船を獲得できます。どちらの要素もプレイヤーの選択肢を広げる効果があるため、早めに抑えたい要素ではあります。
 特に船は戦略の基幹になるような強力な効果を持つものもあるため、ゲームを始めて何をすればいいか迷ったらまずは船の効果を指針にして戦略を検討するのもいいでしょう(なお、船は建築の副産物として獲得することもできます)。
 ジッグラドでは、家駒を配置することで様々なセットコレクションの得点倍率を高めることができます。
 この区画は、単純に得点を獲得するために訪れる区画ではありますが、一般的な建築区画と異なり、他プレイヤーとの絡みなしに自分の家駒を配置できる点に独自の魅力があります。家駒の配置は後述の「布告カード」の達成条件にも関わってきます。

◆機会「不」均等な決算を乗りこなせるか?

 さて、先述のように、プレイヤーはこれら5つの区画を行き来しながら様々なアクションを行います。各区画で行うアクションは、基本的にその区画で得られる得点に繋がります。
 しかしながら、ただ建物を建築するだけ、船を獲得するだけ、ジッグラドに家を配置するだけでは得点を得ることはできません。
 プレイヤーが得点を得るにはその区画で決算を起こす必要があります。そして、この決算こそが、このゲームの最重要項目なのです。
 繰り返しになりますが、5つの区画には、それぞれに対応する色のダイスが規定数配置されます。これらのダイスはアクションの度にプレイヤーにピックされ、盤上から数を減らして行くワケですが、すべてのダイスがピックされた瞬間、「その区画のみ決算として得点計算を行います」。
 そして、重要なのは、ゲームを通してこの決算は5回しか行われないという点です!
 区画は5つ。決算は5回。ということは、ゲームを通して複数回の決算が行われる区画もあれば、その逆に1回も決算を行わないままゲームが終わる区画も出てくるということです。
 決算を行った区画には規定数のダイスが再配置されるため、特定の区画で何度も決算が行われる例はそれほど顕著ではありません。しかしながら、先述したようにダイス目によって次にアクションを行う区画はほぼ決まっているため、もし、あるダイス目が1つもなければ、その区画で決算を起こすのは極めて難しいということになります。盤上のダイス目を眺めるだけでも今後の流れを予測することができるでしょう。
 自分がどれだけ頑張ってその区画を発展させたとしても、その区画で決算が起こせなければ得点には結びつきません。となれば、1つの区画を独占するよりも他プレイヤーを呼び込んで共存共栄を図ったほうがその区画の決算を確実なものにできます。
 ここもまたやはりプレイヤー間の思惑が色濃く介在する部分で、このゲームでは建物の建築のみならず決算でも互いに協力、あるいは出し抜く必要があるのです。
 なお、ゲーム終了時には最後の得点計算として、全ての区画で1回ずつ決算を行います。なので、区画に投じたリソースがまったく無駄になることはありません。
 とは言え、ゲームを通して自分が注力した区画で重ねて決算を起こした方が得なのは言うまでもないので、全体の流れを読んで決算の起こりそうな区画でアクションを重ねたいものです。

◆「布告カード」誰よりも先んじて達成せよ

 区画の決算はゲームの大半を占める得点源です。そして、次に紹介する「布告カード」は補助的な得点源です。
 布告カードには達成するための条件と、達成した際に得られる得点やリソースが描かれていて、いわゆる目的カードとして機能します。
 特徴として、この布告カードはセットアップ時にのみ公開され、ゲーム中に補充されることがありません。また、布告カードを達成し、得点やリソースを得られるのは先着1名限りとなっています。この得点やリソースは結構な価値があるため、ゲーム中は布告カードを巡っての熾烈な争奪戦が展開されます。
 布告カードは「白の建物を3つ建築せよ」「茶色のジッグラドに家を3つ配置せよ」といった達成条件の組み合わせを持っていて、この組み合わせによってゲーム中の各アクションの価値が微妙に変化します。
 また、先程「独力で建物を計画して建築までするのは非効率的ですよ」と述べといてなんなんですが、布告カードの達成のためには無理矢理にでも自分1人で建物を建てる必要がある局面もあります。「達成条件を競り合って結局布告カードを取れなかった!」という展開が一番悲しいので、流れを捻じ曲げてでも布告カードを取りに行くか、それとも無理はせずに布告カードを見送るか、押し引きの判断は重要です。

◆インタラクションてんこ盛り。Tasciniの新たな側面。

 とまあ、「タバヌシ」の各要素について触れてきましたが、どこをどう取っても他プレイヤーとのインタラクション抜きには語ることのできない、インタラクションの塊のようなゲームです。
 特に不均等な決算は、先進的なモダンユーロよりも古典的なドイツゲームによく見られる仕掛けで、プレイヤー間の強烈な駆け引きを誘発する要素です。決算を発生させたプレイヤーはマルチリソースである黄金を獲得できるオトクさもあるため、決算間近の区画に誰が飛び込むのか睨み合う構図が生まれたりもします。
 一方で、メインとなるダイスピックのエンジンは自分のリソースをスムーズに繋げて得点を伸ばしていくパズル感強めの要素ではあり、各要素をうまくコンボさせていく快感は今風のゲームのそれなんですよね。そのため、外向きの要素と内向きの要素が巧みにミックスされた一作ではあります。
 総合的には、TasciniがBoard&Diceで展開してきた一連のシリーズの中でも際立ってインタラクションの強い一作と言えます。「テオティワカン」「テケン」と作を重ねるにつれ、そうした傾向は少しずつ色濃くなってはいたのですが、このゲームでは特にその風味が強いです。
 なので、Tasciniの過去作が好きな人も苦手な人にも触ってみて欲しいゲームではあります。過去作とは明確に勝負どころの異なるゲームなので、「これが好き」も「これは苦手」も両方あり得ると思います。もちろん、Tasciniのゲーム特有の要素の多さは健在ではあるので、トゥーマッチに感じる方はいるでしょう。
 ただ、要素は膨大ながら実際遊んでみると圧迫感を覚えるような重さはなく、意外とスッキリしてる印象です。「テオティワカン」「テケン」のような処理の枝葉もまあまああって、手番の最後に建築士駒を動かす処理忘れは割と頻発するんですが、これは見た目で処理忘れと一発でわかるので補正が効くのはあるのかもしれません。
 また、他プレイヤーの行動によってオトクな区域やアクションがコロコロ変わるのでアドリブ性、即応力が要求されるゲームではあります。なので、プレイの経験値だけで勝負が決まるような直線勝負だけのゲームではないですね。
 その点も懐が深いというか、1回遊んで底が見えるようなゲームではありません。逆に言えば、乗りこなすにはなかなかの修練がいる暴れ馬ということでもありますが。
 また、実は運要素がそれほど高くないのも興味深いところで、これだけダイスを数多く使うゲームなのだからさぞかしアンコントローラブルなのではないか、と思いきや、ダイス目の修正にも使える黄金が手軽に手に入るので割と行動のコントロールが効くんですね。それ以外の要素となるとセットアップ以降でランダム性のある要素が皆無なので、「テケン」と比べると触感としてはかなりドライです。
 インタラクションとパズル性。アドリブ性と計画性。要素は多くともプレイ感スッキリ。背反する要素をこれだけいっぺんに抱えるゲームはユニークで、よくぞまとめ上げたなと感嘆させられる芸術点の高いゲームと言えましょう。
 特にモダンなゲームが好きだけどソロプレイは好みではないというインタラクション重視な方にはぜひ遊んでもらいたいタイトルです。

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