プレイ人数:1人~4人
プレイ時間:60分~120分
対象年齢:14歳~
小売希望価格:12100円(税込)
◆「収穫三部作」を彷彿とさせるリソース多種のワーカームーブメントゲーム
「ブラックフォレスト」は、中世ドイツのガラス職人となって、ドイツ南西部に広がる黒い森(ブラックフォレスト)と呼ばれる森林帯でガラスの製造に携わるゲームです。ゲームを通して、プレイヤーはガラスの製造、またガラスを使った建物の建築、牛や豚の畜産を通して勝利点を稼ぎます。
テーマや見た目は作者ウヴェ・ローゼンベルグの「グラスロード(2013)」に連なるタイトルではありますが、根本のコンセプトは大きく異なります。氏の得意とする多種多少なリソースマネジメントを独自のバッティングメカニクスでフィルターしてファミリーストラテジーの枠に落とし込んだ「グラスロード」に対して、「ブラックフォレスト」は透明性の高いワーカームーブメントを通して様々なリソースに関与するゲーマーズゲームとなっています。一言で言えば「ブラックフォレスト」は「グラスロード」より1回りヘビーなゲームです。
多種多様なリソース変換やワーカームーブメントといった特徴は氏の代表作であるところの「ルアーブル(2008)」や「祈り、働け(2011)」を想起させるところがあります。15年ほど前のローゼンベルグはこうしたコッテリ濃厚ゲームを得意としていましたが、実は最近ではあまりこの方向性のゲームは見かけなくなっています。ローゼンベルグの心境や趣味の変化なのかもしれませんが、「あの頃のローゼンベルグ作品」を渇望していた人にとって本作はまさにクリスマスプレゼントと言えるタイトルかもしれません。
特徴的な内容物として、本作では「グラスロード」で採用された生産ホイールが再登場します。「グラスロード」のホイールも元を辿れば「祈り、働け」の援用なので、それを改めて持ってくるあたり、やはりあの頃のローゼンベルグ諸作の文脈を感じます。
この生産ホイールには中央に針があり、針の左右に様々なリソースが配置されています。それぞれの区画は所持しているリソース数を示していて、針の右側の基本資源が一定数溜まると針が時計回りに動いて上級資源が精製される仕組みとなっています。「粥」と「肉」を「燃料」を使って調理すると「食料」と「商品」ができるよ、といった塩梅で、テーマに即した資源変換が行われます。
基本的にこの資源の変換はプレイヤーの意思とは無関係に自動的に行われます。「グラスロード」での生産ホイールはハプニング製造機と言いますか、思いもよらないタイミングで獲得したリソースによって自動的に上級資源が作られてしまって計画が狂う、または他人の計画を狂わせる、といった暴れ馬を乗りこなす楽しさに焦点が当てられていたのですが、「ブラックフォレスト」では自分の手番外でリソースを獲得する機会は控え目なのでそうしたハプニング性は薄い作りとなっています(不要なリソースは拒否することもできます)。ホイールを活用したゲームと言えば他にも「オラニエンブルガー運河(2022)」がありますが、運用方法としてはそちらに近いと言えるでしょう(これも細かく言えば違いがあるんですけども)。
ローゼンベルグ史的な補足を入れると「グラスロード」は当時の氏のデザインの本流からちょっと離れたところにポンと生まれた作品という立ち位置で、中量級の拡大再生産というコンセプト自体は後の「ヌースフィヨルド(2017)」や「レイクホルト(2018)」に引き継がれていくのですが、「祈り、働け」から始まる生産ホイールの系譜は「オラニエンブルガー運河」までおそよ10年、長らく途絶えていたのです。
そのため、「ブラックフォレスト」は、「もし、あの頃のローゼンベルグが『祈り、働け』の後継として『グラスロード』を作ったら?」というIFが体現されたゲームでもあるように思います。
また、運要素へのアプローチも見てみると「アグリコラ(2007)」以降、「ルアーブル」「祈り、働け」と運要素をどんどん削るトレンドがあったのですが、プレイングにダイスを取り込んだ「オーディンの祝祭(2016)」でこのトレンドは一旦の終了を見ることになります。「ブラックフォレスト」自体は運要素が塩一つまみ程度のタイトルではありまして、その辺りのドライな感覚もやはり2010年代前半のローゼンベルグのトレンドに通じるところがあるんですよね。
◆ゲームを通じて中世ドイツのガラス職人の生活を追体験する
さて、ゲーム中、プレイヤーは手番では自分の労働者1つを別のアクションスペースに移動させ、アクションスペースを挟むように隣接する2つの「専門家」のアクションを任意の順番で実行します。各専門家からは様々なリソースを得たり、個人ボードを充実させる建物の建設やガラス小屋の発展、池や畑を作ったりします。
1手番で2つの専門家アクションを行う…… この「1手番で2アクション実行」という作りは極めて今風で、1手当たりの濃度を高めつつ、パズル的な思考をプレイヤーに要求する作りと言えます。収穫三部作辺りのローゼンベルグ諸作と明確に異なるポイントの一つはここでしょう(「アグリコラ」の時代でもスタプレを取って小進歩をプレイする、みたいな複合的なアクションはあるにはあるんですけどもそこまで徹底してはいないワケです)。
ボード上には複数の専門家で構成される「村」がいくつか点在します。時には今いる村を出て、異なる村の専門家を訪ねる必要もあり、その際には移動コストとして「食料」を支払う必要があります。また、移動先の村に別のプレイヤーの労働者駒がいる場合は、そのプレイヤーに何かしらの資源を1つ支払わなければなりません。
この辺りの資源の扱いが、舗装のない森の小道を辿って遠くの村まで赴く困難さや、村外から現れた旅人への警戒感が匂ってきたりもしてテーマに沿った叙情を感じさせてもくれます。村内の移動にはコストがかからないので、何度も反復横跳びを続けて村から出ようとしないプレイヤーがいると「いつまでも地元にしがみついてるんじゃあないよ」などと言われたりもして。
ゲームそのものの体験とは別のロールプレイ的な風景が自然と広がるところが、在りし日のローゼンベルグ作品の豊饒さを思い出させてくれるところがあります。中世の農業だったり工芸だったりが現代人に何か訴えかけてくるものがあるんでしょうかね。
面白いもので、ゲームのテーマ自体は「グラスロード」と全く同じなのですが、主幹となるエンジンの差異(カードプレイとワーカームーブメントの違い)からなのか、「ブラックフォレスト」ではゲームの世界により深く没入できる印象があります。「移動」の要素が実はキーポイントなのではと個人的には思っていまして、プレイヤーのアバター的存在がボード上の各地を歩き回るという身体的感覚を伴う手続きが没入感に繋がっているのではないかと考えます。
何を言いたいかと言えば、ゲーム自体の完成度とは別に、この作品はゲーム背景の世界の雰囲気を楽しめる懐の深さを備えているということですね。そのロールプレイ性を指して「収穫三部作の頃のローゼンベルグ作品を思い出すなあ」とぼくは感じているのかもしれません。
◆複雑なゲーム内経済と一筋縄ではいかない奥深さ
さて、勝利を目指すうえでは、移動コストの概念から一見するとコストのかからない村内での反復横跳びを繰り返すのが有効…… のように見えるんですが、実はコストとなる食料を作る行動自体が得点要素でもあるのが仕組みとして独特です。つまり、食料は消費すればするほど得点になる…… しかもこれが得点源として小さくないというのがキモです!
生産ホイールのリソース所持制限がここでは逆に働いて「食料を消費しないと新たに食料を作れない」というジレンマさえ起こります。そのため、食料消費のために気軽にぴょんぴょんあちこちの村を飛び回るのもアリ、というのがゲーム力学としてユニークです。
特にゲームの終了条件は食料の消費数が関わっているため、積極的に食料を支払うことがゲームの終了トリガーを握ることにも繋がります。終了トリガーを切ったプレイヤーが最後に手番を行う関係もあり、終了トリガーは割と「切り得」なので、ゲーム終了タイミングをコントロールできるように立ち回るのも一つの手でしょう。
ボード上には多くのアクションスペースがありながら各プレイヤーのワーカーは1つなので、押し合いへし合いのキツキツ感はないのですが、移動にコストがかかる仕組みや専門家の組み合わせのシナジーが「活きる」アクションスペースは存在するため、毎手番、頭を悩ませることになります。
また、アクションスペースを構成する専門家の組み合わせはゲームを通して固定ではなく、リソース「商品」を支払うことで多少の変化が生じます。この変化が頻繁過ぎるとカオス感が先立ってしまうのですが、ゲーム中に「商品」を得られる機会は限られるため、ドラスティックに過ぎず、要所で使用すると効果を発揮するという意味で、いい塩梅だと感じますね。
また、ゲームの進行によってボード上には「仕事」が登場します。仕事では非常に多くのリソースの支払いを求めらますが、得られる利益も大きいので積極的に達成を狙いたい要素となります。
さて、専門家や仕事から集めた資源を元に建物を建てるのがゲームの主な得点源となります。
建物にはプレイヤーに資源を変換する効果や持続効果をもたらしたり、1回限りの即時効果やゲーム終了時得点をもたらしたりするものがあります。こうしたゲームに触れている人ならば見慣れた効果ばかりでしょうが、セットアップでは40枚近くの建物がズラッと並ぶため、果たしてどの建物から建てていくべきなのかとワクワクさせてくれます。
小建物にはそれぞれコストとして「ガラスを必要としない建物」「ガラス1個を必要とする建物」「ガラス2個を必要とする建物」とジャンル分けされていて、かつ、それぞれの建物がどのような利益をもたらすかが分類されているため、目指すべき方向が見えやすいように工夫されています。
こうした多種多様な建物の組み合わせ、シナジーを探求するのがこのゲームの楽しさの一つと言えるでしょう。メインとなる小建物にはA面とB面があり、2回目以降のプレイでは小建物のうち10枚がB面となるため、ゲーム内経済の様相はゲームごとに大きく変わります。
また、大きな得点源となるのが建設に2スペース必要で、かつ多量のリソースを必要とする大建物です。この大建物も各ゲームごとにランダムで登場するので、大建物から逆算して方針を立てるのも一つのやり方でしょう。
建設した建物は個人ボード上に配置します。個人ボードには他にも食料を産出する「池」や「畑」、動物を飼うための「牧場」を配置するスペースも入り用になるため、初期状態ではすぐに手狭になってしまいます。
その際は「ガラス小屋の発展」アクションを行うことで小さな追加の土地を得ることができます。追加の土地には2勝利点がついているので土地を広げるだけでも価値はあるのですが、うまくスペースを有効活用できてこそ得点は伸びるので、空き地をどのように活用するかの計画性が大事です(フレーバー的には、ガラス製造で燃料となる森林を伐採したため、ガラス小屋はより森の奥地に移動し、切り開かれた跡地は農地に変わるという内容だったりします)。
ゲーム内には、建物からの得点、動物からの得点、土地からの得点、食料消費からの得点…… 勝利のための様々なアプローチが用意されています。中心的な得点源は希少な大建物と言えるでしょうが、それ以外の補助的な得点源としてどの要素に注力するかが悩みどころです。
また、運要素の少なさ、多種の資源の存在やその変換、ワーカーの少なさから、一見してインタラクションの控え目な箱庭パズルの佇まいがありますが、実際に遊んでみると他プレイヤーへの支払いの存在、商品の支払いによるアクションスペースの入れ替え、ハイリスクハイリターンな新しい仕事が適宜登場することで「ちょっと話が変わってきたぞ?」となる機会が時おり訪れるゲームでもあります。
こうしたサプライズイベントは、予定の選択肢が潰される方向に限らず、より自分にとっておいしいプランが提示されることも多いため、ついつい目先の利益に誘惑されてしまうのが悩ましいところでもあります。悩む人であればうんうん唸りながら悩み込んでしまうゲームではあるでしょう。
遊びやすく、初回からある程度の成績を残せる昨今の作品とは異なり、要素の多さとその組み合わせ、独特な終了トリガーから、とかく奥底の見えないゲームです。それぞれの資源の相互関係を掴むためにまずは1ゲーム通してみないと見えないところがありますし、専門家の配置と建物のシナジーはゲームごとに変わります。それだけに歯ごたえのあるゲームと言えるので、家にこもりがちな冬休みを過ごすのに持って来いな研究のし甲斐があるタイトルと言えるでしょう。