【スタッフ神田の視点】ドッガーランド

◆今、「敢えて」の復古調のワーカープレイスメント。その狙いとは?

 1万5千年前の大氷河期の時代、世界で9番目に大きな島であるイギリス(グレートブリテン島)はヨーロッパ大陸と陸続きとなっていたとされています。氷河期の終わりに海面の急上昇によってこの陸橋は失われてしまい、イギリスはヨーロッパ大陸から分離した現在の形になりました。「ドッガーランド」という本作の題名はこの氷河期の時代に存在していた土地の名称に由来します。

 さて、「ドッガーランド」においてプレイヤーは自らの部族を率いて歴史に名を遺す大部族となることを目指します。8ラウンドを通して、プレイヤーは資源を収集したり、獲物を狩ったり、新たな家を建てたり、ワーカーを増やしたり、手工芸品を作ったり、フレスコ画を描いたりして、より多くの部族点を得ることを目的とします。

 本作のメインエンジンはワーカープレイスメントです。ワーカープレイスメント自体は今となってはさほど目新しくもないメカニクスとは言えますが、このゲームは「アグリコラ(2007)」などの「ワーカー配置から即時に効果が発動するワーカープレイスメント」ではなく、「ストーンエイジ(2008)」などの「ワーカー配置と効果発動が別のフェイズに分かれたワーカープレイスメント」という点がちょっと「おやっ?」と思わせてくれます。

 「アグリコラ」タイプのワーカープレイスメントはリソース運用の都合上「リソース獲得」→「リソース利用」の順番でアクションを踏む必要がありますが、「ストーンエイジ」タイプのワーカープレイスメントはワーカー配置順にアクションを実行する必要は(必ずしも)ないため、「リソース消費」→「リソース獲得」の順番にアクションを踏むことができる仕組みです。後者の方がアクション選択の駆け引きが一段階複雑な作りと言えます。

 「バス(1999)」や「ケイラス(2005)」などワーカープレイスメントの始祖となるタイトルはどれもワーカー配置と発動が分離した仕組み(分離式)から始まったのですが、「アグリコラ」以降はワーカー配置即発動の仕組み(一体式)が優勢となり、現在ではほぼすべてのワーカープレイスメントがアグリコラ式となっています。

 なぜ、ワーカープレイスメントが「ケイラス」のような分離式から「アグリコラ」のような一体式に移行したのかと言えば、一体式の方がゲームの流れが明瞭で直感的な点が大きいのではないかと考えます。一体式の「リソース獲得」→「リソース消費」のアクション選択順は因果関係が素直に理解できますが、分離式の「リソース消費」→「リソース獲得」のアクション選択順は時間軸を超越したリソースの前借りのような現象が発生していて、いかにも抽象的、ゲーム的な処理です。

 ボードゲームが世間一般に広がりつつある中で、近年のゲームデザインは、より物理法則に即した、生理的な違和感を取り除いた仕組み・流れに変遷しつつあります。それが昨今のゲームの馴染みやすさ、遊びやすさにも繋がっているのですが、一方で物理法則に拘束されるだけではゲームデザインのスペース、引き出しは狭まってしまいます。

 物理法則を捻じ曲げるようなゲーム力学は直観的に呑み込みにくい一方で、そのゲーム独特の旨味を強烈に生み出します。ワーカーを配置してアクションを実行する、言ってしまえばただそれだけの手続きを、人々がわざわざ仰々しく「ワーカープレイスメント」などと呼び表したのも、現実世界では実現できない独自のゲーム力学を表現するために新たなタームが必要だったという理由もあるのでしょう。

 さて、前置きが随分長くなりましたが、そういう意味で「ドッガーランド」が今この時代に敢えて分離式のワーカープレイスメントを選択したのは非常に示唆的ではありまして、これは生理的な親しみやすさを犠牲にしてでも、高いゲーム性を担保しようとする制作側の野心をも感じさせてくれます。また、同じ原始時代テーマの名作ワーカープレイスメント「ストーンエイジ」を多分に意識しているところもあるのかもしれません。

 果たして「ドッガーランド」は「令和のストーンエイジ」なのでしょうか? それをこれからお伝えしていきたいと思います。

◆原始時代の生活は厳しい! 部族を養いつつ拡大を目指せ!

 さて、このゲームの最たる特徴は全8ラウンドのうち、奇数ラウンドを夏ラウンド、偶数ラウンドを冬ラウンドとして、夏と冬を交互に行う独特のラウンド構成と言えます。各ラウンドでプレイヤーはワーカーを働かせて様々なアクションを実行するのですが、冬になると実行のために追加の資源として「毛皮」を要求される羽目になります。厳しい!

 冬であっても手工芸品作りや能力の向上など、毛皮の支払いを必要としないアクションもあるのですが、狩りや採集など外に出かけるアクションは寒さを凌ぐために毛皮が必要です(あるいはペナルティとして-2点を受けとることもできます)。

 じゃあ、外仕事は夏場にこなして、冬場は部屋の中でヌクヌクしてればいいじゃない…… とまあ、理想論としてはそうなんですが、このゲーム、ワーカーには毎ラウンド食料を供給する必要があり、かつ、食料は保存が効かずに腐っていくため(なにせ原始時代ですから)、ゲーム中は夏も冬も関係なしに食料を探し求めて東奔西走することになります。この、先の見えないその日暮らし感が実に原始時代チックなプレイ感でして、プレイ中は常に「飯が足りない!」を連呼することになります。

 しかしながら、ワーカープレイスメントはワーカーの数がすなわち力。人は石垣、人は城。その苦しい食糧事情の中で、せっせと子作りにも精を出し、利用できるワーカー数を増やしていかなければなりません。

 ワーカーを養うには前述の通りに食料が必要ですし、新たな子供のためには新しい家も建築しなければなりません。家を作るには、「木」と「石」が必要です。

 食料がいる。建材も必要。冬に備えて毛皮も欲しい。何もかも足りない!

 ……この辺りの拡大再生産の苦しさと克服の快感は「アグリコラ」などでよく見る王道的なワーカープレイスメントのそれながら、夏と冬というメリハリを盛り込むことで直線ではなく波打ちながら生産力が拡大していくため、自然なドラマを生み出す仕掛けとして機能しています。

◆ワーカーは4種。それぞれ異なるワーカーをどう扱う?

 近代的なワーカープレイスメントの流行りとも言えますが、「ドッガーランド」において、いわゆるワーカーには4種類があります。

 1つ目は基本であり主力となる「狩人/採集者」。

 2つ目はアクションごとに様々なボーナスを得られる強力なワーカー「族長」。

 3つ目はこのワーカーのみが利用できる専用アクションを持つ「シャーマン」。

 4つ目は1回限り使い捨ての疑似ワーカーと言える存在の「道具」です。

 「狩人/採集者」はいわゆる普通のワーカーです。これは特に説明の必要はないでしょう。

 「族長」はアクションに応じて様々なボーナスを得ることができるワーカーです。「狩人/採集者」2人分の働きをしたり、「狩人/採集者」では行えない特殊なボーナスを得ることができるため、どのタイミングで「族長」を配置するかは重要なポイントと言えましょう。

 「シャーマン」はさらに特殊なワーカーで、ゲーム中には「シャーマン」だけしか利用できない特殊なアクションがいくつか存在します。「シャーマン」はこのゲームで最重要のワーカーと言える存在で、シャーマン専用の各アクションはゲームを通して1回だけしか利用できないため、シャーマンを遊ばせずにしっかりと専用アクションを活用するリソース管理を目指したいところです。

 「道具」は1回限り使い捨てのような位置づけのワーカーですが、狩猟にだけ使用できる補助的なワーカーでもあります。人手が限られる中で代替労働力となる道具は重要なリソースではありますが、人間そのものではないので独自の縛りがあります。これは後述する「狩り」の項目にて詳しく説明しましょう。

◆狩猟はこのゲームの華。英語のGameには狩猟の意味もあるんだよ。

 さて、このゲームには食料や建材などを採集するアクションとは別に、馬や鹿などの野生動物や、果てはマンモスをも狩る「狩猟」アクションが用意されています。狩猟は大掛かりな採集アクションとも言える要素で、達成するために規定の人員や狩りパワーが要求されます。狩猟はサイコロを振ったりするランダム要素はないため、十分な人員を揃えれば確実に成功するのですが、いかんせん人手に余裕のないこのゲームでは「マンモス狩りに出るとワーカー尽きてもうなんもでけへん……」みたいなことはままあって、人員のやりくりには常に頭を悩ませることになります。

 そこで役に立つのが先ほど触れた「道具」です。道具はワーカーの代理として狩りパワーを提供してくれるリソースで、少ない人員でも狩猟を成功させられる利点があります。

 ただし、道具は万能ではありません。というのは道具は狩りパワーこそ提供してくれますが、「輸送力」を提供してくれないのです。上の画像の右部分「最大輸送数=輸送力×部族民数」の項目ですね。

 さて、輸送力とは何か? 狩りを成功させたら次は報酬を家に持ち帰るステップに移ります。ここで必要となるのが、そう、輸送力です。

 例えばマンモスを狩ると肉を6個、毛皮を5個、骨を3個の計14個ものリソースを獲得できるのですが、これを全て家に持ち帰るには14個相当の輸送力が必要になります。初期状態ではワーカー1人あたりの輸送力は2個、つまり7人を動員しないと全てのリソースを持ち帰ることができません。持ち帰ることのできなかったいくつかのリソースは泣く泣く諦めることになってしまいます。輸送力、重要!

 この輸送力は「能力の向上アクション」でリソースを払って鍛えられるので、折を見て実行しておきましょう。「能力の向上アクション」では、輸送力のほかにも「移動力」を強化して移動範囲を広げたり、道具の作成効率を高めることもできるので、なるべく早めに実行して土台を整えたいところですね。

 いずれにしても、狩りを成功させるには十分な人員、道具、そして輸送力のどれもが必要です。ボトルネックに気を付けてうまく総合力を高めていきましょう。

◆資源は次第に枯渇していく。新天地へ移住せよ!

 さて、種々の資源は各タイル上で採集できるのですが、1つのタイル上で採集できる回数には限りがあります。4人プレイだと1つのタイル上で採集を2回行うと資源は枯渇してしまいます。

 かくして世界は徐々に荒廃していくのですが、ゲームの進行とともに新たな地形タイルが公開され、世界は拡大していきます。採集や狩りの移動範囲には移動力による制約があるため、部族は時に住居ごと引っ越しして移動のスタート地点を都度動かしていく必要があります。

 どの場所に住居を構えて、どの辺りを自分の「縄張り」とするかは重要な選択です。資源の奪い合いを避けるためになるべく他人とは距離を置きたいところですが、資源が豊富な土地は捨てがたい魅力があります。なんとか競合を避けて自分だけが資源をチューチューできるおいしい場所を探したいものです。

 このマップ上を舞台とした駆け引きにはポリティカルな要素も若干含まれてはいますが、ワーカープレイスメント特有の先手が正義な仕組みから自ずとそれぞれの縄張りが決まる感じがあります。積極的に互いが互いを締め合う作りではありません(ただ、各プレイヤーが十分にワーカーを増やすと全体のリソース消費が激しくなるので資源の奪い合いが激化する可能性はあります)。

 タイルの敷き詰められた盤面は見るべきところが多く、最適な引っ越し先を選択するにはパズリックな思考をも必要とするため、この辺りの情報量はやや過剰、トゥーマッチな感はあります。このゲームは全体的に先例に沿った部分が多い作りではありますが、この世界が拡大する要素は本作のオリジナリティが発揮されている部分でもあり、同時にやや整理しきれていない部分ではあります。

 また、おいしい土地を確保するには「シャーマン」専用のアクションが有用です。ワーカープレイスメントにはつきものの「スタートプレイヤーになるアクション」や、特定の土地タイルを「予約」するアクション、特定の土地タイルの所有権を得る「巨石の設置」などのアクションを利用することで、獲物の横取りを防ぐことができます。

◆主要な得点源は3つ。いや、4つ? 得点を意識した立ち回りが重要。

 さて、リソースを集めるのもワーカーを増やすのもゲーム上では勝利を目指すための手段ではあって、このゲームの最終的な目的はより多くの勝利点を稼ぐことにあります。

 このゲームの主要な得点源は「手工芸品の作成」「フレスコ画の制作」「巨石の設置」と、それらを条件とする「目的タイルの達成」辺りです。

 「手工芸品の作成」では、プレイヤーは木、骨、皮などのリソースを支払って手工芸品タイルを獲得します。これらは作成難度に応じた勝利点をもたらしてくれます。

 「フレスコ画の制作」では、狩りで仕留めた動物のフレスコ画を洞窟に描きます。前提条件としてまず狩りを成功させる必要があり、また、どの動物のフレスコ画を描けるかがラウンドごとのめくりで決まるので、実行はやや制約が強いのですが、リソースを支払うことなく勝利点を得られるので得点効率は相当に高いです。リソース獲得の上でも狩りは重要ですが、一方で勝利点に繋がるルートでもあるので、積極的に狩りに挑むと得点化の選択肢が広がります。

 「巨石の設置」は先ほど触れたとおり、特定の土地タイルを自分だけが利用できるようになる効能があるのですが、同時に大量の木や石を得点に変換する機能を持ちます。このアクションはシャーマンでしか行えないため、集めた木や石はうまいこと使い切って得点を稼ぎましょう。

 「目的タイルの達成」はプレイヤー全員が共有する目標で、2-4人プレイではゲームごとに4枚が公開されます。いち早く目的タイルを達成したプレイヤー(同着あり)は5点を獲得し、2番目に達成したプレイヤーは3点を得ます。これらの目的タイルはゲームごとに変わるので、目的タイルに合わせたプレイングが重要になります。

 意識して得点を取りにいかないと得点が伸びないゲームではありますので、「傍目にはすごく上手く行ってるように見えるけど得点的には全然伸びない」という展開がありえます。得点要素はどれも早い者勝ちで他者と競い合う形になりますので、他人を出し抜く一手を常に考えたいものです。

◆ワーカープレイスメントと探索の組み合わせから浮き上がる物語性こそが最たる魅力

 クラシカルなワーカープレイスメントをメインエンジンに据え、季節の概念とマップの探索・拡大、部族の放浪というこのゲーム独自の要素を盛り込んだ点が「ドッガーランド」の特徴的な部分です。

 リソースを集めて得点化する基本方針はわかりやすく、その中で食糧供給やワーカーの増加など短期的な課題を乗り越えていく流れは古典的なワーカープレイスメントの組み立てそのものと言えます。ただ、ワーカーの多種化や使い分けは今風でもあり、カギとなる「シャーマン」を軸に、各ワーカーにどのように仕事を振り分けるかを考える必要もあり、ワーカー管理は一段複雑さを増した作りと言えましょう。

 資源が枯渇する中で自ずと居住地を移していかなければならないスケール感、マップ要素をプラスした点がこのゲームのユニークな部分で、厳しい食糧事情も相まってプレイ中の没入感、「氷河期に生きてるぜ!」という感覚、物語性を強く覚えるゲームでもあります。ウヴェ・ローゼンベルグは「アグリコラ」を通して中世農民の生活の描写を意図していたそうですが、同じようことはこのゲームでも言えますね。そのため、ゲームの選択でテーマ性を重視する人には特に刺さるタイトルなのではないでしょうか。

 一方でシステム的にすごく目新しい、珍しい仕組みには欠ける部分があるので、そうした斬新さを評価するシステムギークからすると少し辛さが物足りなく感じるかもしれません。とは言え、分離式のワーカープレイスメントならではのアクションの重みづけは今のゲームではなかなか味わいにくいものなので、この部分を新鮮に感じる人も少なくないのではないかと思います。

 「ドッガーランド」は令和の「ストーンエイジ」か? という仮題を冒頭で提示しましたが、結論を言えば、組み立てとしては「ストーンエイジ」に似ているが面白がりどころは別物である、というのがぼくの見解です。「ドッガーランド」はゲームバランスなどを含めて物語性を強く意識した作りで、その辺りが抽象的だった「ストーンエイジ」に比べて原始時代の生活体験にフォーカスしています。

 ダイスによる悲喜こもごもが中心に据えられた「ストーンエイジ」に比べると「ドッガーランド」はより計画性が高く、ファミリーストラテジーよりはもう一段濃いゲーム、やはり2時間3時間をじっくりと楽しみたいという人向けのゲーマーズゲームです。

 テーマやシステムなど似通っている部分は多々ありますが、着地点にはかなり距離があるのでそれぞれの魅力は異なります。その中でも「物語性」に対する積極的な姿勢こそが「ドッガーランド」ならではの独自性のある提案と言えるでしょう。

 「物語性」という視座は特に近年のボードゲームで注目されている分野です。テーマ性とシステムのマッチングという言い換えもできるのですが、ドイツゲームでよく言われる「テーマ性の欠如」を克服しようとする運動でもあり、それがフランスのデザイナー・出版社から送り出されるのは、ある種の納得感を覚える流れでもあります。

 そうした古き良きワーカープレイスメントと最新の物語性という足し算は今だからこそ意識された時代の産物と言えるのではないかと思います。このゲームを遊ぶ際はそうした観点から眺めてみるのも趣があるのではないでしょうか。モダンなゲームとは何ぞや、そしてポストモダニズムなゲームはどこへ行くのかという設問へのヒントがこのゲームには散りばめられているように思います。

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