ゲーム紹介:フォーリサローネ(Fuorisalone / Cristian Confalonieri, Lorenzo Tucci Sorrentino / Cranio Creations / 2018)

スタッフ神田の視点

 「Fuorisalone / フォーリサローネ」は、イタリアはミラノの「ミラノデザインウィーク」を堪能する観光客となって、さまざまな名所を巡りつつイベントに参加して目的カードの達成を目指すセットコレクション要素の強いファミリーゲームです。

 出版社のCranio Creationsは「バラージ」「ロレンツォ・イル・マニーフィコ」「ニュートン」など、重量級の戦略ゲームの数々で人気のあるイタリアのメーカーです。それが同社お馴染みのガイコツロゴを配置するのもちょっとためらうようなキャッチーなパッケージアート…… 一体これはどんなゲームなんでしょうか?

テーマにぴったりの華やかさ

◆そもそも「フォーリサローネ」とは?

 このゲーム、実は同名の家具とデザインの大規模イベント「フォーリサローネ」の公式ゲームらしく、同イベントの公式サイトで購入可能なゲームだったりします。ゲームのアートワーク全般を手がけているSilvia Gherraさんは、本職のアーティストの方で、このゲームで初めてボードゲームのアートを手がけたようです。

 もちろんゲームのUIに関わる部分は出版社のCranio Creationsがコントロールしていて遊びやすいデザインにはなっているんですけども、なかなか日本にはない組み合わせではあって、デザインに関心の高いイタリアならではのコラボレーションだなーと感心させられます。

 作中に登場する家具ブランドも実名表記ですし、カードに記されているQRコードを読み込むとそれぞれの名所の案内記事にリンクしてたりします。もちろんリンク先は英語/イタリア語ではあるんですが、ミラノの観光地紹介的な側面もあって興味深い内容です。

 で、「そもそもフォーリサローネってなんじゃ?」という話もあるんですけども、これもわたくし素人ながら「フォーリサローネ とは」でググってみたところ、元々「ミラノサローネ」という大規模なアートのイベントがあったところに、その出展費用を捻り出せない若い画家とか、ちょっとイベントとは気風の異なるアートをやる人達が、「ミラノサローネ」の周辺で勝手にアート作品を展示したところ、それが評判を呼んでどんどんと拡大していき「フォーリサローネ(サローネの外)」と呼ばれるようになったようです。

 で、今では「ミラノサローネ」とその周辺で開かれる「フォーリサローネ」を一纏めにしたものを「ミラノデザインウィーク」と呼んで家具とデザインの一大イベントとなっているんだとか。TOYOTA や CANON 、東芝、河合楽器、パナソニックなどの日本企業も参加しています。

 ゲーム好きに伝わるように例えるなら、「ゲームマーケットの出展費用高いなー」って思ってる人とか「わしゃ同人魂あふれるゲームを作りたいんじゃ!」って人が、ゲームマーケットの晴海棟の脇の広場でブルーシート広げてジップロック入りのゲームを販売し始めたらいつしかそれが盛況になって「フォーリゲムマ」として成立してしまい、ゲムマとフォーリゲムマで界隈が賑わうようになった……みたいな感じですよ。凄い話だな!

 で、その辺の事情を反映して「このゲームはゲリラ的にアート作品を出展して名声を高めたりするゲームなのか?」と言えば、実はそういう要素はまったくないんですが、調べてみたらめちゃくちゃすぎて面白かったのでこの場を借りてお伝えしておかねばと思った次第です。そりゃコラボゲームの1つや2つくらい作るわ…… アートだわ……

◆ミラノの名所を回ってカードを集める観光ゲーム

 ゲームは6日間に渡って午前、午後、夜の3手番を行い、全18手番でより多くの得点を獲得することを目指します。

 シンプルなルールのセットコレクションのゲームながら、長期的視野を必要としつつ、手番順による綾も随所に感じる渋いプレイ感のゲームです。

 やはりプロダクトの性格上「フォーリサローネに興味はあるけども、ユーロ文脈のボードゲームを遊んだことはない」という人をターゲットにしているのでしょう、テキストによる特殊効果もなく、これぞまさにおユーロと言った仕上がりの1時間程度で終わるファミリーゲームです。

 ゲームには大きく分けて2つの得点手段があり、1つはセットコレクション要素のある「目的カード」からの得点。もう1つは1日の終わりに発生する「人気のある地域」からの得点です。

 一つ目の得点要素、「目的カード」は、記されている2~5枚の組み合わせの「デザインアイコンカード」を支払うことで獲得し、得点化できます。「デザインアイコンカード」は、各地の「イベント」に参加することで獲得できるので、これを集めるためにプレイヤーはミラノの町を練り歩くことになります。

 イベントは、「場所カード」とボード上で示される時間(午前、午後、夜の3種のスペース)の組み合わせによって示され、「指定された時間に指定された場所に辿り着く」ことでイベントに参加する=デザインアイコンカードを獲得することができます。

 もう一つの得点要素、「人気のある地域」は、1日の終了時、つまり3手番ごとに起きる決算のようなもので、自分のいる地域で起きるイベント数に応じた得点が獲得できます。カードによる得点は結構渋いので、こちらの得点もバカにはできません。

 イベントは誰かが参加するたびにコロコロと開催地点が変わるので、人の動きを先読みすることで、将来的にイベントが集中開催されるエリアを見越すこともできる……かもしれません。

 基本的には「目的カード」の達成を目指す。~ために「デザインアイコンカード」を集める。~ために各地のイベントを渡り歩くゲームです。

 1日の終わりには「人気のある地域」で移動を終えたいので、ここにちょっと短期目標と中期目標のジレンマがあり、どういうルートで歩くのが最適なのかをパズルチックに検討する、目的は単純ながら悩みがいのあるゲームになっています。

◆手番はシンプルで簡単!? いや、むしろシンプルすぎてキツい……!?

 手番で行うことは、基本的には1スペース分を無料で移動するだけ(その場に留まることも可)。これ以上ないくらいのシンプルさ加減です。

 ……つまり言い換えると、これは1手で1歩だけ歩いてめちゃ広いミラノの町に点在するイベントに参加せえよとプレイヤーに求めているゲームなのです。えーっと、ぼくの行きたいイベント、夜に開催するんですけど、4歩先だと1日中歩き詰めても間に合わないですよね!?

 手番はシンプル! それゆえに逃げ場がない! なんか見た目に反して結構厳しい経路マネジメントを要求してきますこのゲーム。

 もちろん、それだけではゲームとしては工夫の余地がなさすぎて面白くありません。

 安心してください、Cranio Creationsと言えばルチアーニの諸作でお馴染みの出版社! ルチアーニに習ったのか、彼の得意技、フリーアクションがこのゲームにも導入されているワケですよ!

 それが「追加移動」。

 移動のあとに、プレイヤーは好きな回数の追加移動を行うことができます。やったね!

 しかし、追加移動をするためには「移動トークン」を3枚支払う必要があります。なんやて!?

 で、移動トークンの入手手段は2つあります。

 1つ目は毎朝の定期収入で1枚。ゲームは全部で6日間なので、6枚は確実に貰えるということになります。

 が、これはどちらかと言えば補助的な獲得手段で、ゲームボード上に配置されている移動トークンを拾い集めることが移動トークンの主な獲得手段となります。

 セットアップ時、ゲームボードのすべての地点には移動トークンが1枚だけ置かれます。そして、移動終了時にその地点に移動トークンが置かれていれば、移動トークンを獲得することができます。

 移動トークンはセットアップ時にのみマップに配置され、以降補充されることはないので、人に先んじて移動トークンを拾うことも重要です。

◆人の動きを観察せよ! バッティングを避けるか、敢えてぶつけるか?

 移動トークンの例からもわかるように、このゲームは先手の動きに倣うと途端に不利になるタイプのゲームです。そしてそれは得点に大きく絡む目的カードでも同様です。

 というのは、目的カードはゲームボード上の共通の場に表向きで置かれており、要求されるデザインアイコンカードをいち早く揃えたプレイヤーだけが獲得できる仕組みになっています。集めたデザインアイコンカード自体は非公開ですが、プレイヤーの動き方でどのカードを集めているかはなんとなく記憶できるので、目的が被ると緊張感が生まれます。

 誰かが目的カードを獲得すると、即座に新しい目的カードが公開されますが、そこに示されているデザインアイコンカードがこれまで集めていたものとうまく合致するかと言えば難しいものがあるでしょう。

 このゲームは一手の差が大きく明暗を分けるゲームです。相手より一歩でも先に動けるか、相手より一手でも先にカードを揃えられるか。そこまで見越した上で行動しないと無駄足を踏まされるハメになりかねません。

 逆に言えば、相手の先手を取れれば、相当に優位に立てます。路線変更の難しいこのゲームでうまく相手を出し抜けば、得られる利益は相当なものになります。

 従って手番順はかなり重要です。シンプルであるがゆえに手番順の綾がズドンと効いてくるゲームではあります。

 よくある時計回りにスタートプレイヤーが動くルールなので、快適な1番手の後は、忍耐の必要な4番手が回ってくるので、手番の違いでリスクの取り方も丁寧に変えていく必要があるでしょう。

◆コラボゲームとは思えない、安定感のある仕上がり

 冒頭でもご紹介した通り、このゲームは「フォーリサローネ」という題材ありきで作られたゲームではありまして、「実在する68ヶ所の名所をどーしてもゲームに取り入れなアカンのや!」みたいな制約が存在する中、制作の歪みを感じさせず要素を自然に取り込んで1個のユーロゲームとして着地させている点に編集力(ぢから)を感じさせます。

 言い忘れてたんですがこのゲームは新人デザイナーCristian Confalonieriと、「Dungeon Fighter」「Horse Fever」のデザインに名を連ねるLorenzo Tucci Sorrentinoの共作です。後者のSorrentinoはCranioの諸作で名前を見るので編集気質の人なんだと思います。

 一方でターゲッティングが普段ボードゲームを遊ばない人向けということで、斬新なメカニクスだったり数寄者(すきもの)が呻くようなツイストには欠ける点はありますが、誰でも遊びやすく楽しめる素直な一作に仕上げています。ここはボードゲームの現在の流行を捉えていると言えましょう。

 あんまり書きすぎると興が削がれるので省きますが、勝つために活用できる細かいテクニックも随所にありまして、よく考えて遊ぶとちょっとは有利になるよ、という作りにはなっています。そこはゲームメーカーならではのいい意味での底意地の悪さを感じて愉快ですね。

 一方でカードのめくりなど適度な運要素もありーので、予想外のポロリでキャッキャすることもありますし、もちろんゲームボードの描き込みの細かさなどアート面の尖りっぷりは言うまでもなく、見ているだけで気分がアガるゲームです。クリスマスを控えて家族で遊べるボードのしっかりしたゲームをお探しの方、この選択は結構アリなんじゃないでしょうか?

◆プリントアンドプレイのミニ拡張も見逃せない!

 話は変わって、テンデイズゲームズの「フォーリサローネ」販売ページでは、ミニ拡張のPnPファイルを公開しています。

https://tendaysgames.shop/?pid=155509057

 1つ目はプレイヤーごとに個別の能力をもたらすミニ拡張「あなたは私が誰か知らない!」(すげー翻訳調のタイトル)。

 2つ目のミニ拡張「雨だ!」は毎日起きる様々なイベントカードを提供します。

 これらはモジュール式で選択して入れることができるので、好みによって使い分けるのが好ましいでしょう。

 ミニ拡張「あなたは私が誰か知らない!」は、プレイヤーに非対称の特殊能力を付与する拡張です。アッパー調整で変化の入るキャラクター能力はゲームにさらなる華やかさを与えることでしょう。

 基本ゲームはかなりシンプルな作りではあるので、この記事を読んでるような重篤な人は最初からこのミニ拡張を入れて遊ぶのもよいかと思います。

 ミニ拡張「雨だ!」は、より観光っぽさを増すアクシデント性を高める拡張で、パーティ感を向上させ、より起伏のあるゲームプレイが楽しめることでしょう。ファミリー向けに遊びたい方ならこちらの拡張をオススメします。

ゲーム紹介:ジェネシア(Genesia / Eric Lebouze / Super Meeple / 2020)

スケールの大きさを感じさせるボックスアート

 いつもであれば、記事の冒頭で「このゲームは、ジェネシアと呼ばれる島を舞台に~」というような書き出しで始めるのですが、今回の「ジェネシア」を紹介するにあたって、まず、これを声に出して言いたいところです。

 「ジェネシア」は、カードドラフト+マルチ感溢れる陣取りを基にした文明発展のゲームです

 この一文に惹かれる方であるなら、試してみる価値極大と言っていいでしょう。
 かく言う私もその一人。
 スーパーミープルとのミーティングの中で、はじめて概要を聞いた時点で直感的に「これは!」と強く思わされたのです。
 そして、その後、実際にプレイしたわけなのですが、今、その直感は正しかったとはっきりと言うことができます。
 であればこそ、先に書いた一文に惹かれたのであれば、ぜひ、試してみてもらいたいのです。
 もちろん、それ以外の方にもオススメであることには違いありません。
 では、あらためて詳しく紹介していきたいと思います。

ゲームの背景、大まかな流れ

 「ジェネシア」は、ジェネシア島という島を舞台に、カードドラフト、カードによる文明発展や都市の建設、他の一族の土地の征服などを通じ、より高い得点獲得を目指す戦略ゲームです。
 プレイヤーは、ある氏族として、三つの時代に渡って自分の氏族を繁栄させることになります。
 各時代では、ドラフトによるカード獲得、そのカードを用いた氏族の発展と拡大、そして他の氏族への攻撃が行われます。
 まず、ラウンドのはじめに収入を得て、「配られたカードから一枚選んでは隣のプレイヤーへ渡す」を繰り返すドラフトを行います。。
 その後、実際のカードプレイや、ボード上の駒を増やす「雇用」が行われ、攻撃を経て、時代の終了となります。
 これを三時代に渡って行うわけです。

ゲームの中心となるのはカード

  戦略の基本となるのは、やはり、ドラフトによって獲得することになるカードでしょう。
 ドラフトで選択することになるカードは、ボード上への駒の配置や、使い方によっては強力な効果を持つ「発展」、ボード上で駒を移動させるための「拡大」、名前の通り攻撃時に効果を発する「攻撃」、時代ごとのボーナス点をもたらす「時代の終了」という四種類が用意されています。
 各ラウンド、ドラフトを行った後、発展~拡大~攻撃~時代の終了の順番で進められます。それぞれのカードは、対応する決められたタイミングでプレイすることになるわけです。
 
 発展カードは、自国の発展のために駒をボード上に配置するカードがほとんどですが、臨時収入に繋がるカードや、追加でカードを獲得したり支払いコストを軽減するような効果を持ったカードがあり、各ラウンドにおける戦略のベースとなることが多いでしょう。
 拡大カードは、配置された駒をボード上のエリアからエリアへと進め、領土を拡大するためのカードです。単にカードに描かれた移動力を得られるカードもありますが、多くが「何かを基準に移動力を算出する」というものになっており、他のカードやボード上の状況とのシナジーを前提にカードを選ぶことが、より効果的、かつ効率的な拡大に繋がることは言うまでもありません。
 攻撃カードは他の氏族との領土を賭けた戦いに用いられることになります。単純に攻撃力を上げるようなカードはなく、攻撃に関するルールを変更するという趣のカードになります。例えば、「任意の地域を攻撃対象に選べなくなる」というようにです。枚数も少ないですが、このゲームおける攻撃は「攻め込んだ側の駒が攻め込まれた側が配置している駒よりも多ければ勝利(攻め込んだ側は配置してあった駒と同数を失う)」という、ごくごく単純なものだけに、攻撃カードの存在感は決して低くはありません。
 時代の終了カードは、時代の終了時に書かれた条件に基づいてボーナス点を獲得するためのカードです。各ラウンドにおいて、駒を沢山配置し、積極的に移動、征服を行ったとして、それが得点に繋がるかどうかは、この時代の終了カード次第なのです。もちろん、かなり重要なカードと言えるでしょう。

 それぞれのカードには、効果だけでなく、プレイするためのコストや得点が設定されていることも多く、それらを踏まえての選択も鍵となります。

三人プレイの例

ジェネシアを制するのは誰だ!?

 次に特徴的なボードを紹介します。
 このゲームでは、人数に応じてボードが変わる方式を採用しており、中央部となる「ジェネシア」のボードの外側に、色分けされたプレイヤーごとの領土となるボードが配置されることになります。
 このボードは、さらに細かい地域に分けられており、その地域ごとに駒の配置や地域をまたいでの駒の移動が行われます。
 地域に駒を配置し征服していれば地域ごとに設定された得点を得られますし、最終ボーナスの条件によっては自分や他人の領土にどのように駒が配置されているかによっても得点を得ることができます。
 どの得点を狙うにせよ、そう簡単にはいかないのですが、中でも、地域の征服での得点獲得において、中央部のジェネシアがもっとも熾烈な争いが繰り広げられることになります。
 というのも、地域の征服による得点、この中央部のジェネシアが、突出して高く設定されているのです。
 ボードの中心であり、得点も高く、自分の駒を送り込むために必要な移動力もより多く必要となるジェネシアをどう攻略するか。
 攻める場合も、守る場合も、このゲームの「陣取り」としての側面を見た場合、ジェネシアは圧倒的に重要なポイントとなるのです。

さまざまな思惑が入り交じる-戦争か平和か

 このゲームの重要な要素として「陣取り」がある以上、他のプレイヤーとの取ったり取られたり激しい戦いを避けることはできません。冒頭で述べたように、この「ジェネシア」は、他のプレイヤーとのインタラクション、マルチ感がとても強いタイトルなのです。

 さて、各時代、配置や移動の後、いよいよ戦争の機会が訪れます。
 この「ジェネシア」では、この戦いに一工夫があり、それがシンプルながら、ゲームをより一層アツくさせるものになっています。
 攻撃では、各プレイヤー、戦争の意思があるかどうかを「戦争・平和」のトークンを使って一斉に宣言することになります。
 もし、戦争を選んでいるプレイヤーが一人でもいれば、それらの戦争を実行した後で、さらに戦争をするかどうか、全員が決定、宣言を行います。その後、戦争を選んでいるプレイヤーが一人でもいるのであれば、これが繰り返されます。
 一方、戦争を選んでいるプレイヤーが一人もいなかった場合、そこで攻撃は終了となり、時代の終了へと進みます。

 このゲームでの戦争は、前述したように非常に単純です。しかも、戦争の後、ボード上の駒は明らかに減少することになります。
 ここに、このゲームにおける戦争の意思決定と実行のプロセスの醍醐味があります。
 戦争によって駒の減少が明らかである以上、三つ巴でにらみ合いの続くある地域を征服したい場合、他のプレイヤーが戦争を行い-そして駒が減少した後で-戦争を行うことが有利であることは明白です。
 とはいえ、簡単に「平和」を選択することができないことは、このゲームの紹介をここまで読んだ方であれば、容易に想像できるかと思います。
 もし、全員が「平和」を選択したならば、すぐに終了となってしまうからです。
 もちろん、ある一地域でのみ、そういった状況となっているこはまれでしょう。
 一回の戦争で争いを仕掛けられるのは、一地域、一回のみ。ボード上のさまざまな地域でにらみ合いが続いているようであれば、どの地域に対して戦争をしかけるのか。その選択も重要となるのです。

 この戦争のプロセスは、二者択一の読み合いという要素をゲームに加えるだけでなく、展開と選択によって引き起こされかねない「泥沼化」を避けることにも繋がっており、とてもよく出来ています。
 また、駒の数、配置状況が「抑止力」として働くことも多く、にらみ合いの中で生まれる緊張感がとてもいいエッセンスになっています。

勝者は?そして、さらなる楽しみ方

 三時代を終えると、ゲーム終了となります。
 ゲーム中の得点に加え、他プレイヤーの土地に拡大していることによる得点や地域の征服点、そしてゲーム開始前に配られた「秘密の目的」の達成度合いによる得点が加えられ、勝者が決まります。
 「秘密の目的」に用意された条件は実にさまざまで、その条件にどうアプローチしていくかを考えることがプレイのガイドになっており、ボード上の駒の配置や拡大の仕方に自然と差が生まれることで陣取りとしての妙味も増している印象です。
 
 さらに、ルールブックでは、上級ルールとしてチーム戦ルールや、バランス変更の提案、ソロプレイルールについても述べられており、いろいろなバリエーションに挑戦することができるようになっています。

 カードドラフトがメインに据えられているだけに、プレイ感はそこまで重くなく、とはいえ、本気の陣取りが楽しめる「ジェネシア」。
 時代が進むごとに自然と強力になっていくカードによる展開のダイナミズム。
 「戦争」のプロセスにおける対人ゲームとしての読み合いの面白さ。
 テキストの記述の荒さ-これは我々の力不足の部分も多分にあります-、ボードの視認性など、欠点と言える箇所もありますが、それを補って余りある魅力の詰まった一作ではないでしょうか。
 カードのアートワークも美しく、フレーバーテキストも雰囲気満点。
 ぜひ、手に取っていただきたい一作です。

スタッフ神田の視点

◆古代から未来まで、人類の辿る長い旅路を感じさせる壮大なパッケージ

 「ジェネシア」は、カードドラフトをメインエンジンに据えた陣取りゲームです。プレイヤーは最初の人類の子孫の一人となり、自らの氏族や都市を広めて世界を征服することを目指します。

 出版社のSuperMeepleはクラマー&キースリングの怖い顔三部作のリメイクや「アッティカ」リメイク作「U.S.テレグラフ」、「ルイ14世」リメイク作「マフィオズー」など、作品のチョイスや製造品質でメキメキと頭角を現してきたフランスの出版社です。SuperMeepleについて知りたい方はタナカマ店長のこちらの記事をどうぞ。

 そんなSuperMeepleの一つの集大成とも言えるのがこの「ジェネシア」です。タイトルにもなっているジェネシアはゲーム内に登場する架空の島々の名前で、プレイヤーがその支配権を巡って争い合うメインの舞台となります。
 プレイヤーのスタート地点となる「大陸」から等距離に離れたこのジェネシアは、大航海時代における新大陸を彷彿とさせる存在です。ゲーム的には高得点が設定されているため、終盤では熾烈な争いが繰り広げられることでしょう。このタイトルはまさにゲームのクライマックスシーンを冠した形になります。

 ゲームは3つの時代(ラウンド)に分かれ、主に発明品カードから得られる「進歩点」、氏族駒や都市駒の配置によって得られる「拡大点」「征服点」、秘密の目的カードから得られる「目的点」の合計によって最終的な得点を競います。
 つまり、より多くの技術を発見し、より多くの土地を獲得すれば勝利に近づくという構造のゲームで、勝利への道筋は極めて明瞭です。しかしながら、他プレイヤーを出し抜いて勝利を得るためには、それぞれが特別な効果を持つ時代カードの活用が必須となるでしょう。

◆時代カードのドラフト

 後述するメインフェイズ「年代記ステージ」でもいくつかの意思決定の機会はありますが、ゲームのメインエンジンとして用意されているのが「時代カードのドラフト」です。
 ゲームは大きく3つの時代に分かれています。古代、中世、そして未来です。それぞれの時代では対応する「時代カード」で山札を作り、ランダムに配った6枚のカードから5枚のカードをドラフトします。ドラフトの仕組み自体はこの手のゲームに触れたことがある人なら特に説明の必要もないスタンダートなものです。
 これらのカードは後述する4つのフェイズに紐付けられ、それぞれのフェイズに関連した効果を持ち、基本的なアクションをより効率的に実行するものや特別な効果を発動します。強力なカードはコストとしてお金を払う必要があります。

 例えば「車輪の発明」は、氏族駒を移動させる「拡大」フェイズでのみプレイできるカードです。このカードはプレイすることで7移動力を獲得・使用できますが、コストとして2金を支払う必要があります。
 さて、通常、移動には1移動力につき1金のコストが必要です。となると、このカードは普通に7移動力を得るよりも5金分ものオトクがあることになります。ラウンドごとに貰えるお金は15金と決まっているので、5金の節約はデカい!
 さらにこのカードは電球アイコンが付属した「発明品」でもあり、こういった「発明品」カードをプレイすることでプレイヤーは得点となる「進歩点」も獲得することもできます。これもまた見逃せないオトク要素ですね。
 こういったオトク要素が散りばめられたユニークカードが各時代に30枚ずつ、全部で90枚(さらにプロモカードが9枚)もあるので、手元に来たカードのどれを確保し、どれを相手に渡すのを阻止するかを考えるのは楽しくも苦しい時間となるでしょう。

 また、不要なカードは捨て札にすることで4金に替えることもできます。
 あれ、ということは「車輪の発明」は実質1金分のオトクしかない……? いやまあ、「発明品」の得点もありますし……
 果たして何をピックしたら一番オトクなのか…… それともお金に替えるべきなのか…… 多数のユニークカードの性能を精査するのもこの手のゲームの楽しみどころでしょう。

◆3つのフェイズ「年代記ステージ」

 ゲームは3時代を通して行われますが、1つの時代は「時代の開始」「年代記」「時代の終了」の3つのステージから成り立っています。「時代の開始」ではお金を貰ってドラフトを行い、「年代記」ではフェイズの進行に沿って様々な選択を行い、「時代の終了」では都市の建設や得点計算、手番順決定などの自動処理を行います。
 ゲームのメインとなるのが2番目の「年代記」ステージで、これはさらに分割された3つのフェイズで構成されています。
 「年代記」ステージは、新しい氏族駒を買い入れて配置する「発展」フェイズ、配置した氏族駒を移動させる「拡大フェイズ」、他プレイヤーの土地を攻撃して征服する「攻撃」フェイズの3フェイズからなり、ドラフトで獲得した時代カードのプレイを交えて自分の氏族の拡大と発展を図ります。

 「発展」フェイズでは2金につき氏族駒を1個買うことができます。
 「拡大」フェイズでは、発展フェイズと同様の氏族駒の雇用に加えて、1金につき氏族駒を1個移動させることができます。

 この2つのフェイズは資金のやりくりこそ悩むかもしれませんが、やるべきことはできる限り氏族駒を雇って、できる限りそれを広範にばら撒くだけなので、さほど難しくはありません。
 プレイヤーの手腕を真に問われるのは3つ目の「攻撃」フェイズでしょう。

◆ユニークな進行。戦争か?和平か? 「攻撃」フェイズ

 いよいよこの手のゲームの花形、戦争のお時間です。
 各プレイヤーはオモテ/ウラにそれぞれアイコンが記されている戦争/平和タイルを1枚持っています。「攻撃フェイズ」に入ると、各プレイヤーはこの戦争/平和タイルを手のひらに隠して、一斉に公開します。
 その結果、全員が平和の面をオモテにしていた場合のみ「攻撃フェイズ」は終了します。しかし、戦争の面をオモテにしていたプレイヤーがいたら、「そのプレイヤーだけ」攻撃を行います。うわエグ。
 そして、ちょうど1回だけの攻撃を行った後、もう1回この処理を頭から繰り返します。全員が平和面をオモテにして「攻撃フェイズ」を終わらせるまで延々と攻撃を繰り返します。終わりなき暴力の連鎖や……

 攻撃のルールはシンプルです。自分の氏族駒を隣接する他プレイヤーの支配地域に送り、同じ数だけ駒を対消滅させます。結果、他プレイヤーの駒がすべて消滅したら、さらに無料で氏族駒を送り込んでその地域を獲得することができます。
 駒数イコール戦力で、かつサイコロなどのランダマイザもないので攻撃の成否はパッと見でわかります。時代カードにも突然核ミサイルが飛んできて戦力が壊滅するようなぶっ飛び効果も(ほぼ)ないので、戦闘回りは「ディプロマシー」まで時計の針を巻き戻すかのようなシックな味わいです。

 ちなみにルール上は自分の駒数より少ない隣接地域にしか攻撃を仕掛けることはできないので、(ぼくと同じく)平和を愛する皆様は自国防衛のために近隣諸国と同数の兵力だけ配備しときましょう。
 え、なにかの拍子に隣国の駒数が減ったら? それはまあ…… ごちそうさまです。

 とまあ、そんな感じでルールはシンプルですが、結構な疑心暗鬼発生マシーンと言いますか、囚人のジレンマの邪法的活用とも言えるこの「攻撃」フェイズ。なかなか他では見ない仕組みでありながら、手番順の絡みも含めて様々な展開を巻き起こす悶絶必至なルールです。
 願わくば平和裏にゲームを終えたいものですが、勝利こそがゲームの第一目的ですので、プレイヤーは核ボタンに手をかけて睨み合う国家元首の立場を追体験することになるのですね。悲しいなあ。

 ……とまあ、なんやかやで3時代を終えるとゲームも終了となります。非公開の「秘密の目的カード」は、12枚中11枚が領土拡張で追加得点が得られるカードなので、このゲームにおいて支配地域を広げるのは大正義ということになります。攻撃を躊躇う理由はミジンコほどにもないのでどんどん他プレイヤーを殴りましょう。

◆文明発展テーマのゲームとの比較で見る「ジェネシア」のコンセプト

 さて、メインメカニクスにドラフトを採用した点や文明発展テーマの選択から「ジェネシア」は「世界の七不思議」への強いオマージュが見て取れるように感じます。Super Meepleもフランスの出版社ということもあり、フランス人ゲームデザイナー、アントワーヌ・ボゥザへの意識があるのかもしれません。

 では、「ジェネシア」の提示するこのゲームならではのコンセプトとはなんでしょうか? これは割と一目瞭然で、全体ボードを通した攻撃的なインタラクションであると言えましょう。
 「世界の七不思議」は他プレイヤーとのインタラクションを削ぎ落として、同テーマのゲームとしては異質な軽快さを生み出したところにエポックがあったワケですが、すべてのプレイヤーとのインタラクションを間接的にしか持たせない作りは当時から賛否両論ありました。それを一般的なマルチゲームの文脈に沿ってもう一度組み立てようという試みが「ジェネシア」からは感じられます。
 ゲーム内に存在するリソースはお金のみというシンプルな構造もまた「世界の七不思議」を強く連想させる要素です。なんか割と「世界の七不思議」のエポックさを褒め称える内容になりがちなんですが、まあ、それは一つの事実として、そうした「世界の七不思議」の美点を守りつつ、独自の色を出そうとする挑戦を「ジェネシア」からは感じます。1人あたり20分というプレイ時間はこの手のテーマとしてはかなり軽い部類です。

 また、文明発展テーマのゲームにしては異質な点として、このゲームが拡大再生産要素を持たないことが挙げられます。カードにしても、永続的な効果はその時代のみに限定され、次の時代では効果を失ってしまいます。後の時代のカードの方が強力ではあるものの、前の時代の投資が後の時代で効いてくるといった要素は希薄です。発明品カードは時代を跨いでも継続的に効果を発揮し続けますが、これは得点をもたらすだけで、行動回数やリソース収入を増やすような効能はありません。
 また、プレイヤーは2つの氏族駒を1地域に配置することで時代の終了ステージで都市駒を無料で配置できます。都市駒は戦争の際に戦力にカウントできる防壁のような機能、遠い地域に氏族駒を配置できる拠点のような機能を持ちますが、普通のゲームならありそうな収入を増やしたり人口を増やしたりする効果はありません。
 拡大再生産は確かに楽しい要素ではありますが、一度出遅れると挽回が難しく、上手いプレイヤーがより上手く経済系を回してリードを広げていく要素です。そこを切り捨てて陣取りだけに注力しているのはかなり大胆なゲームデザインと言えます。
 やはりこういったテーマのゲームはあれもこれもと取り入れて史上最高最大最強のゲームを作りたくなるところではありますが、そこをグッと堪えて遊びやすさ、わかりやすさに振ったところにデザイナーや出版社の美意識を感じられます。骨組みだけ見る分には相当にシンプルなルールなので、こういったテーマのゲームを初めて触れる人でも勘所が掴みやすいのではないかと思います。

◆マルチゲームの文脈から見る「ジェネシア」

 そうは言っても「ジェネシア」ってマルチなんでしょ? とお思いの方もいるかと思います。あ、いや、こんな質問してくる人は別にそこで躊躇せんか…… ええと、まずはマルチ……マルチゲームについてご説明しましょう。

 マルチゲームとは何か? これは「広義には3人以上のプレイヤーで遊ぶゲームを指し、狭義にはその中で特に殴り合いでバランスを取るゲーム」を指す用語です。2人で遊ぶTCGなんかは相手を殴り倒せばそれで済むワケですが、3人以上で遊ぶ場合、相手を殴り倒すと同時に背後から刺されないように気を払う必要が生まれます。この複数人プレイ特有の政治力学がマルチプレイをマルチゲーム足らしめるものです。
 とは言え、マルチプレイでポリティクスが存在することは当然なので、それをルール上で主体的な行為に変換できるかどうかが、マルチゲーム度の濃淡に繋がるのかもしれません。

 話が逸れました。で、「ジェネシア」のマルチ成分はどの程度かと言えば、結構エグいルールを用意してはいるものの、意外とサッパリしています。
 というのは、ゲーム開始時点では各プレイヤーは遠く離れた自分の本拠地に引きこもっていて、他文明との接触がありません。1時代目は他文明と接触しても戦う余力などなく、2時代目でようやくなんとか、3時代目はもうゲーム終了ですからそりゃやるべきことはやる、となると、ゲーム全体に占める殴り合いの時間はそれほど多くはないんですよね。
 ガッと殴ってサッと終わって後腐れがない。マルチゲーム特有の不毛さや疲労感が苦手な人(ぼくのことです!)もこれなら「あーあ、読みが外れたなー」で笑って終わる範囲なんじゃないかと思います。

 理不尽さが生じるとしたら、「秘密の目的カード」の得点条件に纏わる読みようがない攻撃ですが、まあ、得点がほぼ公開されている以上、明確なキングメーカーを避ける意味でもゲームデザイン上必要ではあるかと思います。ちなみに上級ルールでは、この「秘密の目的カード」を使わないことを選択することもできます。そんなんガチマルチじゃん……
 カード効果にしても、「攻撃」フェイズで使用できるカードが1,2時代目には実は存在せず(!)、3時代目に存在する「攻撃」フェイズ用カードの多くは侵略にペナルティを与える用途を持つため、ゲームデザインとしては安易な殴り合いをむしろ嫌っているフシもあります。ここがまさにマルチとは一線を画すクラシカルなユーロゲームの数々をリメイクしてきたこの出版社の美学なのではないかなと感じています。

 それでいて囚人のジレンマのような戦争/平和タイルのやりとりはマルチでこそ輝くルールです。
 複数のプレイヤーがジェネシアを囲んで睨み合っている中、誰かが最初に攻撃を仕掛け、その疎かになった足元を第三者が狙い、機は良しと見て守備側が反撃に転ずる……それはまるでピタゴラ装置のような複雑な運動体です。
 最大人数となる5人プレイでは戦いの帰趨を見定めることは極めて困難でしょう。それだけに勝利には指導者であるあなたの的確な舵取りが求められます。氏族の繁栄はあなたの手にかかっています!

◆軽と重、「ジェネシア」の重みと手触り

 自他共に認めるマルチ嫌いなぼくですが、マルチには1つだけ効能があって(認めがたいですが!)、それはマルチは「短いルールで濃厚なインタラクションを楽しめる」ということです。「ディプロマシー」を見ても分かる通り、プレイヤー同士の複雑なやりとりを表現するために、マルチという仕掛けは実によく作用するのです。

 またドラフトもルール自体はシンプルですが、カードテキストを読み解いたり、実際の強弱を推定するのは結構なゲーム勘が必要です。ドラフトもまた軽いのに重みがある、独特なボリューム感を持つメカニクスです。

 この軽くて重い、重くて軽い、不思議な手触りが「ジェネシア」のユニークな点だなとぼくは思います。そういう意味では(テキストを読み解くのは若干慣れがいるかもしれませんが)、見た目以上に幅広い層に楽しんで貰えるタイトルなんじゃないかなとも思っています。

 実際、最初の1時代目なんかはあっという間に終わってしまい、却って肩透かしを食うほどです。しかしながら2時代目、3時代目と進んでいくにつれ、このゲームが隠し持っている本性が顕になっていきます。
 「あ、なるほど、そういうゲームだったのか!」と気づいた時には、このゲームをもう一度プレイしたくなっていることでしょう。インタラクションの薄い多人数ソロプレイが主流となっている今、逆に気の知れた友達とバチバチやりあってみるのも乙ではないかと思います。

ゲーム紹介:スチーモポリス(Steamopolis / Gerhard Hecht / Corax Games / 2019)

 「塔に作られた都市で、次期市長となるために市民のために経済活動に勤しむ」という一風変わった舞台、テーマを持つのが、この「スチーモポリス」。そして、テーマに負けないくらいの独自性の高いワーカープレイスメントのシステムを持ったゲームです。
 加えて、地味!渋い!苦しい!という三拍子揃った、なんともマニア心をくすぐるタイトルなのです。

舞台は、塔に作られた都市、そして行き交う飛行船

 まず、特徴的なゲームの舞台、テーマを紹介しましょう。
 舞台となるのは、ゲームのタイトルにもなっている街「スチーモポリス」。この街は、塔自体が街となっているという少し変わった街なのです。
 塔自体が街になっていることもあり、この街では移動手段として飛行船が用いられています。この飛行船で各階層を行き来することになるわけです。
 そして、プレイヤーは、このスチーモポリスの街の次期市長候補となり、住民から信頼を得るために、経済活動を行うことになります。

特徴的な縦長のメインボード

メインシステムは独自性の高いワーカープレイスメント

 ゲームのメインシステムは、いわゆる「ワーカープレイスメント」。自分の駒を行いたいアクションに置いてく、アクションの早取りと駒のマネージメントがキモとなる、ゲーム好きにはお馴染みのシステムです。
 ちょっと変わった舞台とテーマの割に王道的なシステムが採用されていることを意外に思われた方もいるかもしれません。しかし、この「スチーモポリス」では、王道的なシステムに一工夫も二工夫も加えられており、それがこのゲームの面白さのキモとなっているのです。

 「スチーモポリス」では、各プレイヤーは、それぞれが自分用の個人ボードを持っています。
 この個人ボードは、このゲームの主役とも言える飛行船をイメージしたものとなっており、中央に蒸気用のパイプが描かれています。この蒸気用のパイプに置かれた蒸気駒が、アクションを選択、実行するための、いわゆるワーカー駒になっています。
 この蒸気駒をメインボードに配置することで、アクションを選択するのですが、自由に置けるわけではありません。
 メインボードの各アクションは、階層ごとに割り振られ、階層がより高いほど強力なアクションが用意されています。しかし、高い階層に用意されたアクションを選択するためには、蒸気駒の蒸気圧を高めた状態でなければなりません。「蒸気駒にパワーを溜め、そのパワーを用いてアクションを選択する」というイメージです。蒸気圧は、蒸気駒ごとに異なるため、まんべんなく蒸気圧を高めていくか、それとも特定の駒の蒸気圧を高めていくかの判断が求められます。
 
 さあ、蒸気圧を高めたら、いよいよアクションの選択です。
 「スチーモポリス」では、この後の蒸気の使い方がとても重要です。そして、もっとも特徴的とも言えるものになっています。
 飛行船内、蒸気用のパイプの下には、さまざまな設備のタイルが置かれています。蒸気駒を配置する際、蒸気に余裕があったならば、その蒸気をパイプから各設備に流し、設備タイルに描かれたアクションを実行できるのです。
 例えば、蒸気圧7の蒸気駒を用いて、必要な蒸気圧が5のアクションを実行するとします。このとき、余裕のある「2」分の蒸気をパイプから流し、設備に流用することができるのです。ただし、そう単純な話ではありません。蒸気圧を減らす際に、その真下にある設備にしか流用できないのです。7から6へ減らす際に7と6の間にある設備、6から5へ減らす際に6と5の間にある設備、というようにです。
 これは、パイプのどの位置に設備タイルを置き、どのように蒸気圧をマネージメントするかということの重要性を非常に高めています。
 設備タイルをたくさん並べれば、溜めた蒸気をどんどんパイプへ流し、立て続けにアクションを実行することができますが、メインボードのアクション選択の幅は狭まるでしょう。
 間を開けつつもまんべんなく設備タイルを配置すれば、どのような状況にも対応できるかもしれませんが、蒸気圧を無駄にしてしまうことも多いかもしれません。
 これがキモとなることは、ゲームバランスにも現れています。
 冒頭に書いたように、「スチーモポリス」のゲームバランスは、非常にタイトなものになっています。
 たかが一回の設備タイルのアクションができるかできないか。それによってゲーム展開は大きく異なってくるのです。

さまざまな設備で飛行船を構築していく

アクションの実行順も超重要

 「スチーモポリス」では、蒸気駒を配置、即アクション実行というわけではありません。
 手番が来た時に、アクション実行を選択することで、アクションを実行することになります。
 この時、アクションの実行順がとても重要となります。
 「あるアクションでリソースを得てから、そのリソースを別のアクションで使う」なんて言う場合はもちろんですが、加えて、ボーナス点を狙うためにも重要なのです。
 飛行船が移動してアクションを実行するという設定になっており、この際に、乗客を運ぶことができるのです。乗客には、どの階層で乗り、どの階層で降りるのかが設定されています。例えば、「階層1で乗り、階層4で降りる」という乗客を運ぶためには、「階層1でアクションを行った後で、階層4でアクションを実行する」必要があります。アクション効率や条件を満たすために、この逆順でアクションを実行しなければならないこともありますが、もちろん、その場合は、乗客を運ぶことでのボーナス点を得ることはできないのです。
 また、乗客は、下半分の階層に住む人と上半分の階層に住む人が用意されています。下半分の階層に住む人は乗るのも降りるのも下半分、上半分の階層に住む人は乗るのも降りるのも上半分です。ワーカーとなる蒸気駒は複数あるとはいえ、この上下を踏まえるとなると、決して安易に駒を置くことは許されないでしょう。
 「たかがボーナス点一回のために、どれだけ苦しい思いをさせられるの!もう、無視しちゃえ!」と思われるかもしれませんが、ここでもシビアなゲームバランスが効いてきます。この積み重ねも決しておろそかにできず、そして、これがやはり面白さに繋がっているのです。

苦しい!キツい!面白い!

 ここまでの説明でも何回か出ていますが「スチーモポリス」のゲームバランスは、極めてキツく、タイトなものに設定されています。
 キツいものをいくつか紹介してみましょう。

 まず、先に説明した蒸気圧の部分。
 この蒸気圧は上がりにくく、アクション実行時に無駄に消費してしまうことが非常に多いです。
 ワーカーのアクション選択の幅を広げてくれるパワーであり、場合によっては設備のアクションにも用いることができるリソースでもある蒸気圧。この蒸気圧は、定期収入のような形で自然と増えていくことはありません。基本的には、蒸気圧を上げるアクションを実行してあげるのです。特定のアクションによって、手番ごとに蒸気圧を上げるような効果を得ることもできますが、効果を得ることができるのは一回の機会につき蒸気駒一個ごとに限られる上に、恒久的なものでなくその効果はいともたやすく失われるのです。また、こうしてせっかく上げた蒸気圧も、設備タイルに流用できない限りは、蒸気駒を配置した時点で余った分は無情にも無駄になるのです。

 リソースも簡単には貯めさせてくれません。
 このゲームでは、クリスタルと歯車という二種類の資源がリソースとして登場します。
 この資源駒、個人ボードである飛行船駒に用意された収納箱と呼ばれる保管スペースの数までしか保管できません。
 勘のいい人ならおわかりかもしれませんが、この収納箱、もともと用意されているもの以外は、設備タイルで増やすしかありません。設備タイルは特殊なアクションをもたらすだけでないことは、とても重要な点でしょう。
 かつ、資源が貯まりにくい上に、メインの使い道となる設備タイルの獲得に必要なバランスもシビア。資源が二種類とは言え、その重みは計り知れません。

 さて、重要な設備タイル、ですが、これもあっさり失ってしまうこともあります。
 というのも、ゲームが進むことによって登場するより強い設備タイルの獲得条件の中に、「設備タイルを一枚捨てる」というものがあるのです。
 これにより、その時々で獲得しやすい設備タイルを獲得すればいい、というわけにはいかないのです。

 これでも十分に苦しくキツいゲームバランスのことが伝わったかと思いますが、もちろん、これだけではありません。
 得点バランスのタイトさ、至る所に用意された「早取り」の要素などなど、そのゲームバランスを一通り挙げるだけでも、かなりの文量になるでしょう。

これだけ貯められれば・・・しかしアクションが少ない!

だからこそ、挑戦しがいあり!

 さて、この「スチーモポリス」、ここまで読んでいただいたあなたには魅力的に映ったでしょうか?
 いや、ここまで読まれた方なら、とても魅力的に映ったはずです。
 苦しくキツい・・・だからこそ、うまくマネージメントし、ゲームに勝つことが出来た時の興奮はかなりのもの。
 
 個人ボードである飛行船の構築と、プロット的な側面もあるアクション選択、蒸気圧の独特のマネージメント、どの要素も抜かりなく、作り込まれた印象のある「スチーモポリス」、このゲームはある意味、デザイナーからゲームファンへの挑戦かもしれません。
 最後まで読んだあなたは、この挑戦を受けて立つ資格のあるゲーマーと言えるでしょう。
 ぜひ、じっくりと味わってみてください!

スタッフ神田の視点

◆新興パブリッシャーと技巧派デザイナーのマリアージュ

 「Steamopolis / スチーモポリス」は、ヘンテコながら独自性が光るドイツの新興出版社Corax Gamesと、2013年に「カシュガル」、近年では「アンドールの伝説」のスピンオフゲーム「災いの島の冒険」「リートブルグ攻城戦」をデザインしたGerhard Hecht /ゲルハルト・ヘフトがタッグを組んで送り出した重量級ゲームです。

 目敏い方なら2019年エッセンシュピールのスカウトアクションでこのゲームがチラリと顔を見せたこともご存知かもしれません。そこからも分かる通り、このゲームは新興出版社の野心と技巧派デザイナーの創意工夫が噛み合ったキラリと光る一作です。

 とは言え、公称60-100分というプレイ時間は誰でも気楽に楽しめるゲームとは言いかねる長さと重さではあります。実際、テストプレイの際にはあまりの要素の多さ、思考量の複雑さにグロッキー気味になるプレイヤーもいたほどですが、中期的計画、長期的視野を必要とする複雑巧緻なシステムは手強くも攻略のしがいがあり、ゲームシステムをハックすることに魅力を感じる(ぼくのような)タイプのプレイヤーにとってはトコトン弄くり甲斐のあるオモチャとも言えます。

 「ワーカープレイスメント」「エンジンビルド」と言った要素が好きな人なら、暴れ馬のような独自のシステムを乗りこなすことに大きな快感と興奮を味わえることでしょう。

◆飛行船を強化し、縦横に都市を飛び回れ

 さて、このゲームは、歯車、蒸気、そして飛行船の町「スチーモポリス」において、次期市長候補たるプレイヤーたちが票(勝利点)を集めるために町を飛び回る、という内容になっています。アイコンたっぷりな大型ゲームボードや、飛行船を模した個人ボード(実はそれぞれアートが細かく異なる!)は見ているだけでワクワクしてくるド迫力です。

 プレイヤーが勝利点を獲得する方法は

・都市の特定の階層を訪れる
・乗客を輸送する
・装置を飛行船に組み込む
・飛行船からバナーを吊す
・特定の装置効果を発動させる

 の5種類があるのですが、基本的には個人ボードである飛行船を「装置」や「バナー」のタイルでデコレートすることがそのまま勝利点の獲得に繋がる仕組みになっています。

 「装置」や「バナー」のタイルを獲得するためには2種のリソース「歯車」「クリスタル」が必要です。従って、「歯車」「クリスタル」をまずは獲得し、それらを支払って「装置」や「バナー」のタイルを購入することが序盤の流れになるかと思います。

 しかしながらこのリソースもタイトな所持制限が課されており、所持制限を緩めるためには装置の購入が必要で、しかし装置を購入するにはリソースが必要で…… という鶏と卵のジレンマもあり、最初の一手から計画性を求められるシビアさです。

 「3つの階層でタイルが売り切れる」「乗客タイルの山札が尽きる」のいずれかが満たされるとゲームは終了に向かいます。最も多くの勝利点を獲得したプレイヤーが新しい市長となり、ゲームに勝利します。

◆独自スタイルのワーカープレイスメントに刮目せよ

 このゲームでは、手番で下記の3つのアクションのうちいずれか1つを選択します。

・蒸気圧の上昇
・蒸気の利用
・工場への飛行

 「蒸気圧の上昇」は、いわゆるワーカーである「蒸気トークン」を一時的にパワーアップさせるアクションです。蒸気トークンはそれぞれが蓄えられた「蒸気圧」(ワーカーのパワー)を示す蒸気トラックに配置されており、そのパワーの範囲内の「工場」(いわゆるアクションスペース)のみ利用することができます。

 このアクションを選択することで、プレイヤーはより多くの蒸気を蒸気トークンに蓄え、より高く飛行することができます。それはつまり利用できる工場の幅を広げてアクションの質を向上させたり、買い物の選択肢を広げることを意味しています。

 反面、このアクションはあくまで補助的なアクションではあって、勝利点やリソースを直接獲得できるアクションではないので、なるべく使用回数を抑えたいところです。とは言え、どうしても使用したい工場が高階層にある場合など、このアクションを使う必要のある場面は度々出てきます。

 「蒸気の利用」は、一般的なワーカープレイスメントのイメージに最も近いアクションで、蒸気トークンを工場に配置します。

 先程述べた通りに蒸気トークンは自分のパワーの範囲内の工場にしか配置できません。基本的に低階層の工場は利用しやすいものの効率が悪く、高階層の工場はその逆になります。

 この「蒸気の利用」では工場の予約だけを行い、工場アクションの実行は次の「工場への飛行」を待たなければなりません。「ケイラス」のようなワーカーの配置と実行が分離しているタイプのワーカープレイスメントです。

 ワーカープレイスメントの常として、すでに蒸気トークンが配置されている工場に重ねて蒸気トークンを配置することはできないので、必要な工場は相手に先んじて予約する必要があるのは言うまでもないでしょう。

 「工場への飛行」は、「蒸気の利用」で予約した工場を実際に稼働させる(もしくは同階層のタイルを購入する)アクションになります。配置済みの蒸気トークンを任意の順番で実行し、全ての蒸気トークンを回収します。

 「工場への飛行」1回で、配置した蒸気トークンの数に等しい工場を利用できるので、「蒸気の利用」ですべての蒸気トークンを配置してから「工場への飛行」を行うのが最も効率的です。

 しかしながら強力なタイルの奪い合いなど、要所では一手の差が明暗を分ける場合もあるので、時には蒸気トークンが手元に残っていても積極的に「工場への飛行」を選ぶ必要もあります。

 ということで、繰り返しになりますが、手番では「蒸気圧の上昇」「蒸気の利用」「工場への飛行」のアクションのうちいずれかを行います。

 基本的には「蒸気圧の上昇」でワーカーを強化し、「蒸気の利用」でワーカーを配置し、「工場への飛行」で効果を得る&ワーカーを回収する、という流れになります。

 最初の一手目から「工場への飛行」は選べませんし、すべての蒸気トークンを配置してしまえばあとは「工場への飛行」を選ぶしかなかったりと、選択が1択しかない場面も案外多いです。なので、本筋は結構シンプルな作りのゲームなんですね。

◆目指せ蒸気の有効活用! 装置の配置と運用に悶絶!

 大筋のアクション選択は結構シンプル…… そう、単純に「ワーカーのパワーの範囲内のアクションスペースにワーカーを配置して実行する」だけであれば、実のところ、それほど難しい話ではありません。

 このゲームをひときわ手強くさせているのは余剰のパワーを支払うことで効果を発揮する「装置」の存在です。

 実は先程、わざと説明を省略したのですが、2つ目のアクション「蒸気の利用」では、ワーカーをアクションスペースに配置する前に「パワーを支払って装置を利用するか否か」という選択を行います。

 なので、「蒸気の利用」は実質的には「ワーカーの持つパワーを装置起動用と工場配置用に振り分ける」というアクションなのです。制約のあるアクションポイントの振り分けのような感じとも言えるでしょうか。

 しかし、これが! このメカニクスが! プレイヤーに自由度を与える一方で爆発的に選択肢を増やし! 一手をめっちゃ悩ませてくれるのです!

 当然ながら装置を利用するとワーカーのパワーは減り、選択できるアクションスペースは少なくなります。持ってるパワーちょうどのナイスなアクションスペースがあれば悩む必要もないんですが、パワーが余る場面も多く、その時に適切に装置を通してパワーを利用できると結構なオトク感があるんですね。

 逆にせっかく頑張って購入した装置がまったく使われずに置物と化してしまう物悲しい場面に遭遇することもままあります。

 このゲームの手強さを強めている一因として、ゲーム中に購入した装置はそのタイミングで飛行船に配置しなければならない点が挙げられます。どこに乗せればええんやこれ!?

 大体このゲーム、後になってから「あーっ、装置の置き場所間違えた!」と叫ぶことになるゲームです。刻々と移り変わる状況で適切なスロットに装置を設置して、効率的に稼働させるのは極めて難しい……

 でも次はなんかうまくできそうな気がするんだよなー。そう思わせてくれる遊びごたえのあるゲームなのも確かなのです。

◆これがホンマのエンジンビルドや!

 装置は飛行船を強化する一要素ではありますが、他にもワーカーの出力に関連する諸要素をいじり回すことができるのもこのゲームの特徴です。

 ゲームシステムとしては「エンジンビルド」に分類されるこのゲーム、文字通りに飛行船のエンジンを弄ることができるゲームでもあり、乗り物改造が大好きな男の子諸君には堪らない内容です。しかもエンジンの強化方法もバラエティに富み、どんな方針でエンジンを強化するかでまた悩んでしまうんですね。

・ワーカーの数は正義! まずはわかりやすく「蒸気トークン」の数を増やして手番効率UP!
・最低パワーを上げて対応力をUP! 「基礎圧力トークン」の強化で初期蒸気圧を底上げ!
・ちまちま蒸気を溜めるのが嫌ならスキップすればいいじゃない! 「昇圧器トークン」の購入で面倒な中盤を省略だー!
・「蒸気トークン」を裏返せば手番ごとに勝手に蒸気が溜まっていくぞ! でも高階層だけは簡便な!

 てな感じでエンジンを強化する手段は多岐に渡ります。パワーアップ手段が豊富なゲームはいいゲーム。

 しかもそれが飛行船テーマとマッチして強化度合いがイメージしやすいのがなおステキ。他人の強化済みエンジンがズルく見えちゃうのもいいゲームの証拠です。

 装置と工場の利用でなんぼでも蒸気は必要なので、エンジンの強化は必須です。きちんとエンジンを強化してやれば、ゲーム終盤では蒸気を溜める「蒸気圧の上昇」を選ぶ必要はなくなるほど。

 「いかに一手の効率を高めるか?」は、このゲームの最大の課題と言えましょう。

◆ゲーム終了ボーナスなにそれ? シビアな得点レースに食らいつけ!

 このゲーム、普通のゲームならよくあるゲーム終了時のボーナス得点の類が一切ありません。ゲーム中に獲得する得点が全てなのです。潔い……

 なので、一度得点差がつけられるとなかなか挽回が叶いません。ゲームの性格上、どうしてもエンジンの強化に目が行きがちではありますが、直線の短い競馬場のようなもので、ゲーム中も意識的に得点を獲得して好位をキープしないと最後の直線には絡めません。

 しかも1点1点が重く大きく、ロースコアで決着しやすいタイプのゲームです。飛行船の強化はアクションの選択肢を広げるだけでなく、どうやって得点に結びつけるかを逆算して考える必要があるでしょう。

 ゲーム中の得点源の1つが飛行船を飾り立てる「バナー」タイルです。バナーには「運んだ乗客に等しい数の得点を得る」など3種類があり、基本的に1点1点をちまちま稼ぐこのゲームにおいて、割と簡単に3-5点、条件によってはそれ以上の得点も見込める高効率の得点源です。

 しかしながらバナーの購入にはワーカーである蒸気トークンをコストの一部として支払う必要があり、購入の際には手番効率と得点を天秤にかけて悩むことになります。また、プレイヤー間での奪い合いも激しく、高得点のバナーの獲得を巡り、プレイヤー同士の激しい手番の駆け引きが繰り広げられます。

 「相手に先に手前のタイルを取らせて、自分はその奥からポロリしてきたおいしいバナーを獲得する」みたいな遅延の攻防は、少し懐かしい洗面器ゲームめいたユーロ味があり、作者の懐の深さを感じさせるデザインです。こうした洗面器ゲームは、4人でのプレイともなるとインタラクションが強すぎて成立が難しい(横槍が入るところまで計算できない)場合も多いのですが、このゲームでは1つの階層に関与できるプレイヤーの数を絞ることで局所的な1 on 1の対立構図を作り出しているところに巧さを感じます。

 「乗客の輸送」も見逃せない得点源の1つです。高階層にいる青い乗客は希望する階層に送り届けることで1点を与えてくれる存在です。

 このゲームにおいてコストの支払いなしに得点を獲得できるのは大きなアドバンテージなのですが、他プレイヤーが「乗客の輸送」を行った結果、乗客の位置と行き先がガラリ一変してしまうこともあります。運要素の控えめなこのゲームにおいては比較的アドリブ性が強くやや粗さも感じるのですが、同じアクションを繰り返すパターン防止の意味合いも含まれているのでしょう。

 また、「乗客の輸送」は1回の「工場への飛行」内で完結する必要があるので工場を利用する順番もよく考えないといけません。また考える要素が増えたぞオイ!

 装置の中には「乗客の輸送」に追加の得点をもたらすパッシブ効果を発揮するものもあり、そうした装置を組み込んだ場合は積極的に「乗客の輸送」に挑むべきでしょう。

◆運要素は控えめ、シンドいけどまた遊びたくなるゲーム

 個人的にこのゲームはかなり肌に合うタイプのゲームではあって、その理由の1つとして運要素が少ないことが挙げられます。これは人によっては窮屈さが先立つ点かもしれないのですが、パズルチックなエンジンビルド要素が盤面のドライな変化にマッチしていて、「長期的展望の元で入念な計画を練って実行に移す」重量級ゲームならではの醍醐味が存分に味わえる点をぼくは高く評価しています。

 タイルにはめくりによる伸るか反るかもあるのですが、一部のアクションにはおまけのようにタイルの裏をチラ見する効果も用意されていて、なるほど、これはそういうエクスキューズなんだなと感心させられたりもします。

 ただ、これまでのゲーム経験から、ぼくが「手応えあるなー」と感じるゲームは、多くの人にはトゥーマッチな場合も多く、このゲームもその例に漏れないとは思っています。テストプレイが終わった後は全員ぐったりしていました。

 しかしながら、後日このゲームの話をしていて「またやりたいんですよねー」と呟いたら、タナカマさんも「私もやりたいんですよ!」と食い気味に来たのにはビックリしました。なんかゲーム中は凄い辛そうだったのに……

 脳をずっとフル回転させる、疲れるゲームなのは確かなんですが、このゲームにはもう一度遊びたくなる麻薬的な何かがあるのかもしれません。

 さて、「スチーモポリス」はプレイヤーを試すかのような仕掛けが随所に施され、初見のプレイヤーを大いに惑わせる手強いゲームです。その最たる原因は独特のゲームエンジンの奇抜さ、斬新さによるところが大きいのでしょう。

 しかしながら直感性は損なわれておらず、舞台上の物理法則とシステム上の物理法則が違和感ない形で結合されています。そこに非合理感はないため、遊びにくさを感じる部分は少ないです(説明を省いたスパイボットの挙動はちょっと慣れがいるかも)。

 テストプレイでは本気でのめり込みすぎてタナカマさんに窘められたくらいに手応えのあるゲームです。システム好きのプレイヤーの皆様にはぜひチャレンジしていただきたい1作です。

ゲーム紹介:ニャー(MEOW / Reiner Knizia / Cranio Creations / 2020)

 前回紹介した「メカネ」に引き続き、2020年秋のクラニオクリエーションズ新作の紹介です。
 名ゲームデザイナー、ライナー・クニツィアの新作カードゲーム「ニャー」です。
 ゲームジャンルとしては「トリックテイキング」。日本でもファンの多いジャンルですが、もともとトリックテイキングに馴染みのあるヨーロッパと違い、日本ではイマイチ馴染みが薄く、場合によっては「マニア向け」と取られることも多く、少し抵抗感を抱いている人もいるかもしれません。
 しかし!この「ニャー」は、そういった人にこそ遊んで欲しい、広くオススメできるトリックテイキングなのです。

 誤解を恐れず言うならば、「トリックテイキング」とは、「カードの数比べを繰り返していくゲーム」なので、本来は非常に簡単なゲームです。
 配られた手札のカードから、全員が一枚ずつカードを出していきます。この一周が「トリック」。そして、出されたカードの数を比べ、そのトリックの勝者(基本的には数字の大きい人)となります。ざっくり言うと、トリックを取りあうから「トリックテイキング」なのです。
 そして、基本的な「トリックテイキング」において、もう一つ大事なのが「フォロー」のルールです。
 「ニャー」では、「マストフォロー」というルールが採用されており、カードを一枚ずつ出す際に、最初に出されたカードと同じ色のカードを出さなければなりません。(同じ色のカードを持っていない場合は、好きな色を出すことができます)
 フォローが出来ない場合は、基本的にそのトリックにおいては「負け」になるのです。
 だだし、そこでもう一つの基本的なルールである「切り札」が大事なポイントになります。ある色が「切り札」となっており、最初に出されたカードと異なる色のカードであったとしても、「切り札」は常に「より強いカード」として扱われるのです。例えば、「赤の8」が最初に出されたトリックにおいて、「緑の2」は異なる色であっても「赤の8」よりも強いのです。

少し変わったデザインのカード

 「ニャー」では、赤・青・緑の三色、1~18の各18枚でゲームを行います。マストフォローで、切り札は常に「緑」です。そして、さらにそれぞれの色で「1」は、同じ色の「18」には勝てるというルールがあります。
 「トリックテイキング」としては、非常にオーソドックスと言えるものじゃないでしょうか。

 ここまで読んで「オーソドックスだから、広くオススメできるトリックテイキングなの?」と思われた方もいるかもしれません。
 もちろん、オーソドックスだから、ということも理由のひとつではありますが、「ニャー」は決してそれだけのゲームではありません。

 では、どんなところがオススメポイントなのか。
 ここで、カード構成を詳しく見てみます。
 3色、18枚。色の数が少なく、それぞれの色のカードがとても多いという構成になっています。
 マストフォローのトリックテイキングでは、ある特定の色のカードを手札からなくし、カードを少し自由に出せるようにすることがプレイのコツとしてあります。
 しかし、「ニャー」では、そのカード構成から、ある特定の色のカードを無くすということが出来にくくなっているのです。
 そして、このカード構成と得点の仕組みが相乗効果を生むことになります。
 「ニャー」は、3ラウンドに渡ってゲームを行います。
 それぞれのラウンドの開始時に、トリック数分のチップが並べられ、このチップを順番に、各トリックにおける勝者が取っていくことになります。
 このチップの得点配分がいやらしくも面白く作られています。
 チップは、プラスだけでなく、マイナスも用意され-むしろ、マイナスになりやすいバランスで構成されているのです。
 すなわち、トリックは、ただ勝てばいいのではなく、そのチップに応じて勝たないようにすることも大事なのです。
 前述のカード構成と組み合わさることで、ここに妙味が生まれるのです。
 特定の色をなくしにくく、それぞれの色における数字の強弱は幅広いため、各トリックで勝ちを狙うのか、勝たないようにするのか。また、どの数のカードを出すのか。異なる色を交えた手札のコントロールというよりも、そのトリックごとの押し引きとその見極めのウエイトがとても大きいのです。そして、だからこそ、特定の色をなくし、切り札も踏まえた手札のコントロールが出来るようになった時のアドバンテージも大きく、それがゲームをよりエキサイティングなものにしてくれているとも言えます。

さて、どんな風にカードを出していこうか・・・

 加えて、「ニャー」では、各ラウンド9トリック(手札9枚)と決まっているため、6人プレイ以外のプレイ人数においては、使用されないカードがあることになります。
 トリックテイキングでは、出されたカードを覚えておくことで、その後のプレイに活かすという「カウンティング」というテクニックがあります。
 このカウンティングがハードルの高さとして感じられることも多いのですが、この「ニャー」では使われないカードがあることで、それを緩和させてくれていると言えるでしょう。(もちろん、カウンティングは魅力でもあるため、一部のカードをはじめから抜く、上級ルールも用意されています)
 これもまた得点チップと組み合わされることで、アクシデント性が高まり、ゲームをよりエキサイティングなものにしてくれています。
 特に、「マイナスチップを一枚打ち消す魚チップ」、「一枚ならマイナスにならないものの、二枚取ってしまうと大きくマイナスとなる割れた花瓶チップ」を、意外なカードで取ったり、取らされたりの時は、おおいに盛り上がります。
 また、盛り上がりという点では、最強のカード「18」に勝つことのできる「1」のカード抜きで語ることはできません。「1」で勝つ、勝たされてしまうこと、決して少なくないですよ!

「割れた花瓶」はとてもいいアクセント!

 「ニャー」は、テクニカルな部分を極力廃し、遊びやすさ、そして、なによりゲーム的な盛り上がりに特化させたトリックテイキングと言えるでしょう。
 ポーチタイプのパッケージや愛らしい猫のイラストに惹かれて手に取ったとしても、そのままの軽い気持ちで十分楽しめるタイトルになっていると思います。
 ありそうでなかった「ファミリー向けトリックテイキング」として楽しむのもいいかもしれません。
 とにかく広くオススメできる一作です。
 

スタッフ神田の視点

「ニャー」は、「チグリス・ユーフラテス」「ラー」など様々な名作で知られるライナー・クニツィアのトリックテイキングゲームです。出版社は「バラージ」「ロレンツォ・イル・マニーフィコ」などを送り出しているCranio Creations。

 この両者がタッグを組むことで一体どんなゲームが生まれるのか!? 1トリテファンでもあるぼくは、このゲームの初報を聞いてテンションが跳ね上ったことを覚えています。と、同時に数寄ゲームズで「ブードゥープリンス」の日本語版の発売を控えていたぼくは「クニツィア唯一の本格トリテ!」という売り文句が使えなくなったことにガッカリもしてたのでした。まあ、それはさておいて。

◆ゲームの概要

 ゲームの詳しいあらましはタナカマさんの記事を読んでいただくとして、こちらの記事ではトリテをある程度知ってる人向けに一段飛ばしで概要を述べていきます。

 カードは全部で54枚、内訳は3スート18ランクで、トランプの4スート13ランクと比べて1スートが長いのが特徴的なカード構成です。

 ゲームの準備として27枚のご褒美トークンをよく混ぜ、そのうち9枚を表にして一列にして並べます。トリックに勝ったプレイヤーはこの列の一番左のご褒美トークンを獲得するのですが、ご褒美トークンには「得点となるトークン」、「失点となるトークン」、「失点トークンを1枚だけ捨てられるトークン」、「2枚集めると-20点になるトークン」の4種があり、単純にトリックに勝てばいいだけでなく、時にはトリックに負けなければならない時もあります。このトークンの獲得に纏わる手札のハンドリングがこのゲームのキモと言える部分です。

 トリックテイキングとしてはマストフォローで切り札は緑スートで固定、最高ランクの18がプレイされた場合だけランク1が最強になるというツイストもありますが、基本的には極めてオーソドックスな作りです。

 プレイヤーには9枚のカードが手札として配られ、1ディールは9トリックで構成されます。ゲームは3ディールを通して行うので全部で27トリック。これはご褒美トークンと同じ数なので、すべてのご褒美トークンがちょうど1度だけゲームに登場することを意味しています。
 得点計算の後、最も多くの得点を獲得したプレイヤーがゲームに勝利します。トリテを嗜んでいる人なら、これだけでどんなゲームか想像がつくほどに、シンプルな構造のトリテと言えます。

◆シンプルなだけのトリテなのか?(反語)

 少し長くゲームを嗜んでいる人ならご存知のように「ご飯に塩を振っただけ」というゲームも密かに多いのがクニツィア。シンプルな作りを身上とするクニツィアのゲームは、一歩間違えると味気なさが先立つこともままあるのですが、「ニャー」もそんなゲームの一つなのでしょうか?

 実際に遊んでみると上記の通りシンプルな作りのゲームにも関わらず、トリテ特有の勝ち負けの楽しさが存分に味わえる作りになっています。これがまさにクニツィアならではの魔法の種なのですが、とにかく得点配分が絶妙で、控えめな存在感の得点トークンに対して、失点トークンは7点や10点など強烈なインパクトを持つものが多く、得点をコツコツと積み上げるよりも、一撃死の失点をなんとか避ける方向に意識が向く得点体系になっています。
 これによって「このトリックは絶対に取りたい!/取りたくない!」という気持ちをプレイヤー全員に浸透させ、その上で必ず勝者と敗者が生まれる非情の勝負を行わせるので、そりゃドッカンドッカンと盛り上がるワケです。「はい、ここで盛り上がってくださいねー」と合図するクニツィアの幻影すら見えてきます。

 他にも2枚取ると-20点になる花瓶のトークンもうまい作りで、1枚取るだけなら「まあ、1枚ならセーフだし」と余裕ぶっていられるのですが、いざ2枚目を目にした時の緊張感はとんでもないものです。「パチンコでリーチがかかると当たった時と同じ興奮作用がある」という話がありますが、まさにそれと似た人間の心理の機微を活用しているワケです。

 また、地味ながら匠の技を思わせるのが、ゲームを通して得点計算が1回だけという省力設計。トリテの得点計算は意外と手間ではあるので、ならば途中の計算はいっそ省いてしまえ、とするのは合理的なクニツィアらしい考えとも言えます。

 一方で難点として、カードのデザインがこなれていない点が挙げられます。独特の小判型のカードは「猫に小判」と言わせたかったのでしょうか、ユニークな形状ではありますが、やや大ぶりで子供の手には持ちづらく、ランクもカードの内側に寄っているので思いっきり開かないとランクが見づらい場合があります。
 せっかく子供でも持ちやすい手札9枚のトリテなのに、惜しい……!

 また、ゲーム展開として手札とトークンがどうしても噛み合わない状況が発生することがままあります。トークンの並びが得点ばかりなら、トリックを取れるハイランクのカードや切り札が欲しいのですが、トークンの並びとは関係なしに手札は無作為に配られるので、手札を見て「あ、どうしようもない」と思ってしまう場合もあるにはあります。

 1ディール目から大量失点を食らった場合、劣勢を挽回できるルールが欲しくもなりますが、今回は敢えてそうした付け足しは省いて、粗さはあっても手軽さを優先したんだと思います。軽いんだから負けたらもう1ゲームやればいいじゃない!

◆クニツィア諸作との比較で見る「ニャー」

 さて、クニツィアにとってこの「ニャー」は、「ブードゥープリンス」に続く、本格トリテの2作目という位置づけになるのですが、実は広義のトリックテイキングとしては、「陰陽/フィフティ・フィフティ」や「革命万歳!」のようなゲームもあり、それっぽい手札回しのゲームを結構作ってるデザイナーではあるんですよね。
 で、「ブードゥープリンス」はかなり本格的なトリテの文脈に寄せた1作だったんですが、この「ニャー」はもっと「陰陽」や「革命万歳!」に寄せたカジュアルな数字比べの趣が強いゲームのように思えます。
 すごく極端な言い方をすると「3スートにした『陰陽』」ぽいゲームでもあります。「陰陽」は手札と場札を見比べながらトリックの取る/取らないを選択するゲームで、これが感覚としてはかなり似てるんですね。
 「ニャー」の独特な3スート18ランクのカード構成は、手札のスートを枯らしにくく、基本的には数字の大小で勝負をつける場面が多いです。なので、同じ「捨てるトリック」にしても捨て方を問われると言うか、5を捨てるべきか8を捨てるべきか、手札のマネジメントを問うゲームになってるんですね。
 「ニャー」は、1ディールが終わった後で「あの時5じゃなくて8を捨てておけばなー」という振り返りがすごく多いゲームで、失着がわかりやすいのは、ゲーム自体がわかりやすいということなんだと思います。本格的なトリテだと自分の敗因を探るのって結構慣れがいるんですよ。

◆国産トリックテイキング「フリップオーバー」

 さて、「ニャー」をさらに語る上で外せないゲームの1つが国産トリックテイキングの「フリップオーバー」です。このゲームはトリックの勝ち負けによって得点/失点トークンを獲得するという、まさに「ニャー」と同じコンセプトを持つゲーム!
 「さてはクニツィア、パクったな……?」と思ったトリテ好きもいるとかいないとか(※クニツィアはゲームデザインの剽窃に対して極めて厳格な態度を取ることで知られるデザイナーです)。
 しかもこの「フリップオーバー」は得点トークンのウラオモテが「10点/-10点」のように同じ絶対値で正負が反転した作りになっていて、普通に1ディールを遊んだ後に、同じ手札で反転した得点トークンで2ディール目を遊ぶ…… つまり、前半でバカスカ得点を取れるような強い手札は、後半で失点までバカスカ取るハメになりかねない…… 手札運へのエクスキューズまで備えたトリテなのです。これはエポックではないですか?
 とは言え、両者を比較してみると遊びやすさで言えば「ニャー」に軍配が上がるところもあり、ここは重視するのがガチ感かパーティー感かで好みが分かれるところなのかなと思います。同じコンセプトながら仕上がりが全く違う方向を向いているのがゲームデザインの面白いところですね。
 そんな「フリップオーバー」は、テンデイズゲームズでも2546円(税込)で販売しているので、気になる方はどうぞ「ニャー」と一緒にご検討頂ければと思います(露骨な宣伝)。

https://tendaysgames.shop/?pid=129650087

◆シンプルなトリテと侮るなかれ!

 さて、ここまで「ニャー」の特徴について色々と触れてきましたが、総論としては「クニツィアらしいわかりやすくシンプルに纏めたファミリーゲーム」であり、「ツボを抑えた設計でドカンと盛り上がる抜け目のないトリックテイキングゲーム」と言えます。
 「ブードゥープリンス」でも、シンプルなルールでプレイヤーを一喜一憂させる技巧を見せつけたクニツィアですが、この「ニャー」でもその手腕は健在と言えそうです。
 それでいて「ブードゥープリンス」よりもルール量はより少なく、よりカジュアルな方向に舵を切られているゲームなので、初めてトリックテイキングを触る人にもうってつけのゲームと言えるのではないでしょうか。一方でトリテ好きの方には手札配りきりの上級ルールが用意されていて、カウンティングを交えたトークンのやりとりもこれまた熱そうです。
 「ニャー」は見た目以上に感情が揺れ動かされる手強くも楽しいトリテです。ぜひぜひ一度遊んでみてください。

ゲーム紹介:メカネ(MEKHANE / Alessio Calabresi, Roberto Grasso / Cranio Creations / 2020)

今や、「イタリアの」と付ける必要もないくらい、今のゲームシーンを代表する一出版社として広く知られるようになったクラニオクリエーションズ。
シモーネ・ルチアーニの「ニュートン」、「バラージ」といった重めの戦略ゲームで人気の出版社ですが、今年秋の新作は、ストーリーテリングゲームの「メカネ」とクニツィアによるお手軽トリックテイキング「ニャー」という、少し意外な二作となりました。
今回は、そのうちの一作、「メカネ」を紹介したいと思います。

プレイヤーは、運命を司る神

「メカネ」でプレイヤーが行うのは、神となり、ゲームの登場人物の運命を司ることです。
一人は悲運(を司る)プレイヤー、そのほかは(普通の)神々のプレイヤーです。
悲運プレイヤーが、このゲームの登場人物をラウンドごとに一人、また一人と「死」を与えていく中で、他のプレイヤーは自分の運命カードで示された登場人物をどうにか生き残らせるように運命を操っていきます。

どこでどのような危機が登場人物を襲うのか

ゲーム開始直後

ゲーム開始の際には、テーブル上には、人物カード、場所カード、危機カードが並べられます。
そして、悲運以外のプレイヤーは、運命カードと数枚の物語カードを受取ります。この運命カードには数字が書かれており、その数字に対応した人物カードを最後まで生き残らせることが悲運以外のプレイヤーの目的となります。悲運プレイヤーは、運命カードに対応した人物を一人も生き残らせないことが目的となります。と、一応、ゲームとしての目的、勝利条件はあるものの、このゲームを楽しむという点において、そこにこだわることは少し野暮かもしれません-それがどうしてなのかは、この紹介を読み進めていただければおわかりいただけるかと思います。
そして、この準備とゲームにおいて重要となるのが、人物カードの上に並べられた二枚カードです。この二枚の「場所カード」、「危機カード」は、今回の物語の設定となる「どこで」、「どのような危機」が登場人物たちを襲うことになったのかが描かれているのです。

さて、今回の設定は・・・

ここで悲運プレイヤーは、この二枚のカードをもとに自由な発想で物語の導入部を決め、それを発表します。
例えば、上記の写真に写っている二枚のカード、「町外れにあるスクラップ工場、そこに住む一家が突然武器を手に、町の住人を襲うのだった」というような感じでしょうか。

物語カードで、登場人物を運命を操れ

この危機に対し、神々プレイヤーは、ゲーム開始時に配られた物語カードで、道場人物の運命を操ることになります。
登場人物一人の下に物語カードを出し、その物語カードに描かれたものが、どのようにその人物に作用し、どのような出来事が起きたのかを語ることになります。

自由な発想で物語カードを出しましょう

「メカネ」で面白いところは、ここで自分の生き残らせたい登場人物に有益となるような物語に限らず、どうなっても構わない登場人物が明らかにピンチとなるような物語を語ってもいいということです。
「自転車」のカードを出し「逃げるために乗った自転車。しかし、自転車のタイヤはパンクしていた!」というふうにです。
ドラマティックな展開でも、地味目な展開でも、「ホラー映画あるある」的な展開でも、とにかく自由に物語を語りましょう。
神々プレイヤーが一枚ずつカードを出したら、いよいよ悲運が彼らを襲います。(その前に、一枚もカードが出されなかった登場人物にはランダムで物語カードが出され、悲運プレイヤーが彼らの物語を語ることになります)
悲運プレイヤーは、語られた物語をもとに、どのプレイヤーがこの危機の犠牲者になったのかを決め、発表します。
物語カードを出す~物語が語られる~犠牲者を決める~この流れを、一人の登場人物が生き残りとなるまで繰り返します。
最後まで生き残った登場人物に対応した運命カードをもっている神々がいたなら、そのプレイヤーが勝利者となります。もし、どの運命カードにも対応していない登場人物が生き残っていたならば、悲運プレイヤーの勝利となるのです。

さまざまな出来事が・・・
そして、生き残った登場人物は・・・

ダークな雰囲気が最高

ここまで読んで、ゲーム慣れした人であれば、「勝利者を決める」という点においてはあまりシステマティックでなく・・・というより「機能してないんじゃないか?」と思った方もいるかもしれません。
たしかに、「勝利者を決める」という点においては、その通りで「ゲーム的なシステムとしての弱さ」は認めざるを得ないでしょう。
しかし、「魅力的な世界観で物語を紡ぐ」という点においては、ゲーム的なシステムの弱さを差し引いても、非常に魅力的に作られているのです。
全体的にとてもダークにまとめられたイラストは、複数のイラストレーターに描かれており、カード一枚一枚が美しく、かつゾクゾクとさせる力強さも備わっており、とても魅力的です。
物語カードに描かれたいろいろなものも同様です。見るからに強力そうな「武器」、存在感ある「動物」、呪術的なイメージをもった「アイテム」、さらなるピンチに繋がりそうな「怪異」のようなもの・・・その種類、内容はとても豊富です。もちろん、物語カードに描かれたイラストもとても個性的です。
場所、危機、人物、物語・・・用意されたカードそれぞれが、想像力を刺激してくれることは間違いありません。
ゲーム的なシステムの弱さを補ってあまりある雰囲気の魅力は、冒頭でも少し触れたように「勝利にこだわるのは野暮」と思わせるに充分なものがあり、それこそがこのゲーム最大の魅力ではないでしょうか。
また、すべてのカードが自然とダークでホラーな展開に自然と繋がりそうなものに統一されている点は、得手不得手が出やすいストーリーテリングというジャンルのハードルを下げていることに繋がっているように感じられ、「メカネ」の長所と言えるでしょう。
ぜひ、自由な発想で物語を語ってみてください。


スタッフ神田の視点

ここからはテンデイズゲームズスタッフの一人、(「円卓」こと)神田の視点での紹介になります。

 Cranio Creationsの2020年新作ゲームが、このMEKHANE/メカネです。タイトルのMEKHANEは元々は4,5世紀にギリシャの演劇で使われた木造のクレーンを指し示しているようで、当時はこのクレーンで神々を演じる役者を空中飛行させていたそうです。つまり当時のワイヤーアクション。ギリシャの科学力すごい!

 そんなステージマシンの名前からイメージを含まらせたのでしょう、このゲーム、MEKHANEは、神々の気まぐれによって悲運に見舞われる登場人物の生死を見届ける即興劇を模したコミュニケーションゲームです。Cranio Creationsと言えば、「バラージ」「ニュートン」「ロレンツォ・イル・マニーフィコ」などルチアーニの諸作から戦略ゲームを多く出版する会社というイメージもありますが、パオロ・モリの「アンユージュアルサスペクツ」なんかもこの会社なので、この路線もなるほどという感じです。

 このゲームでプレイヤーは1人の「悲運プレイヤー」とその他の「神々プレイヤー」に分かれて物語を作ります。
 神々プレイヤーは登場人物がこれから直面する物語を綴り、悲運プレイヤーは物語を総括してどの登場人物が死ぬかを判断します。
 悲運プレイヤーは舞台を設定し、登場人物の生死をジャッジする、一種のゲームマスター的な立場を務めます。

 ゲームの構図としては悲運プレイヤーvs神々プレイヤーという形になりますが、最終的な勝者は全員のうち1人だけという個人戦のゲームです。
 悲運プレイヤーと神々プレイヤーでは勝利条件が異なり、神々プレイヤーの勝利条件は「運命カード」によって秘密裏に決まる登場人物の生存です。
 全ての神々プレイヤーが勝利条件を満たせなかった場合、悲運プレイヤーがゲームに勝利します。
 つまりゲームとしては登場人物に秘密裏に肩入れして生き残らせようとする神々プレイヤーと、その思惑を探って阻止する悲運プレイヤーという正体隠匿ゲーム的な構図にもなりますが、「誰が勝ったかに関係なく、楽しんで素晴らしい物語を紡ぐことこそが重要なのです!」とルールブックにあるように、それ以上に全員参加で素敵な物語を綴ることがゲームの目的となるでしょう。

 セットアップとしては、まず7枚の「人物カード」が公開されます。また、神々プレイヤーには「人物カード」に対応する「運命カード」を配られ、どの「人物カード」を生き残らせるかが秘密裏に決まります。

 次に物語の舞台となる「場所カード」、登場人物の脅威となる「危機カード」を1枚公開します。
 この「場所カード」と「危機カード」の詳しい内容は悲運プレイヤーが決めます。カードは印象的なアートで解釈の幅も大きく、悲運プレイヤーの想像力に委ねられています。

 最後に神々プレイヤーに、手札として「物語カード」を6枚、個人的物語デックとして3枚の「物語カード」を配れば準備は完了です。

 ゲームはスタートプレイヤーから順番に「物語カード」をプレイして、生存中の登場人物いずれか1人の物語を話します。
 「物語カード」はなんらかのアイテムを表現しており、基本的には登場人物がアイテムを利用してこの危機にどう対処したかを表明する形になります。
 神々プレイヤーが手番としてそれぞれ1枚ずつ「物語カード」をプレイしたところでラウンドには一区切りが入り、登場人物全員の物語を綴ったところで悲運プレイヤーがどの登場人物が死ぬかをジャッジします。
 こうして1ラウンドに1人の登場人物が召され、全6ラウンドを通して7人の登場人物のうち1人の生存者が決まるまでゲームは続きます。
 そして、自分の肩入れする登場人物が生存すればその神々プレイヤーが勝利し、誰も残らなかった場合は悲運プレイヤーが勝利します。

 この「手札を使って危機を脱する」構造は「キャットアンドチョコレート」にも似ていますが、このゲームのツイストは「登場人物を生かすのではなく殺す方向にアイテムを演出してもいい」という点です。
 というのは、神々プレイヤーは自分の守護する登場人物にはなんとしても生き残って欲しいのですが、それ以外の登場人物が死ぬのは一向に構わないワケで、自分のキャラに肩入れして目論見がバレるよりは、他人のキャラを死に追いやって自分のキャラを間接的に生かす方がより勝利に近づきやすいんですね。
 「1ラウンドに登場人物が1人だけ死ぬ」ということは逆に言えば「1ラウンドに登場人物は1人しか死なない」ということでもあり、他人に強烈な死亡フラグを建設することで悲運プレイヤーのジャッジから逃れようとするのはマルチ力学的に正しい算段と言えましょう。

 「拳銃」や「金属バット」のように明らかな殺傷力を持つアイテムがある一方で「ちくわしか持ってねえ!」と思わず叫んでしまうような変なアイテムも数多く、こうしたアイテムをキャラのバックボーンを捏造して物語に繋げられると愉快な達成感があります。
 やはり同じアイテムにしても演出次第で危機を切り抜けることも、より危険な状況に登場人物を追い込むこともできるのが面白いところで、例えば「拳銃」なら、「迫ってくるゾンビたちを射撃の名手であるこのキャラ(勝手な後付設定)はバッタバッタと撃ち倒していった!」と演出することもできますし、「キャラは弾丸を撃ち尽くしてしまい、もはや絶体絶命だ」という演出もできます。なんなら「絶望したキャラは自分のこめかみに銃口を当て、引き金を引いた」なんて演出も可能です。

 ただし、その演出が本当にキャラの生存に結びつくかは悲運プレイヤーの嗜好によるところが大きいです。迫りくるゾンビに対し、自転車を使って逃走を図るのは常識的に考えれば有効な策なんですが、「仲間を見捨てて真っ先に逃げ出すのはこの手の話の死亡フラグだよね?」と悲運プレイヤーがジャッジすれば、逃げ延びた先に突如ゾンビが溢れてきて殺されてしまうのです。
 この一般的に生存に有効な手段が、見方によって一転死亡フラグに反転する瞬間には妙なカタルシスがあって、唯一無二の即興ドラマがリアルタイムで展開されているワクワク感があります。
 また、生死の全権を握る悲運プレイヤーの趣味嗜好に寄せていくと生存に有利になるというのは、この手のコミュニケーションゲームの基本線、王道を外さない作りです。ゲームを通して、お互いの趣味の理解が深まるというオマケもある……かもしれません。

 まあ、中には「このアイテムでどないせえと……」という場面もあるにはあるんですが、このゲームを楽しむ上で大事なのは「頑張ってオチをつけようとしない」ことです。人間どうしてもピンチを切り抜けるために、面白いこと、上手いこと、カッコイイことを言いたくなるんですが、どうにも無理な時は「ゾンビに囲まれた登場人物はふと昔のことを思い出した。そう言えば、昔旅先で食べたピザがおいしかったなあ。あれはどこの店だっただろうか……」とか唐突な過去回想に入るのも手かもしれません。……走馬灯じゃねえか!

 ゲーム好きの視点では、キャラクターの生死を左右する決定力のあるカードは死ぬ確率が上がる後半のためにとっておき、序盤はゆるいカードを活用してなんとか自キャラを生き延びさせるという、(物語生成系のゲームとしては変な話ですが)勝つための手札のマネジメント要素があるのがちょっとニヤリなポイントです。
 手札は最初に配られる6枚だけで基本的に補充がなく、1ラウンドに1枚を使って6ラウンドで使い切る形なので、ここぞ!というタイミングで有用なカードを使うのがテクニックです。
 このゲームは「あくまで勝敗は二の次」、楽しい時間を過ごすためのアクティビティの趣が強いゲームではありますが、一方で素直に勝利を目指すことが様々な選択の補助線にもなる作りで、「ただのアクティビティに終わらせないぞ」という密かなデザイナーの野心をぼくは感じます。まあ、気のせいかもしれませんが。

 とは言え、これらのツイストによってアイテムカードは使い道が広く、この手のゲームとしては、かなり柔軟なプレイができる点は白眉かと思います。
 逆に言えば、自分の守るべきキャラが他人の思惑で危機に瀕することもあるはずです。で、そういうときは特殊アクションとして、手番外の物語の付け足しも可能です。
 この時、プレイヤーは自分の個人的物語デックから物語カードを1枚引いて手札に加え、その後、手札から任意の1枚をプレイして物語を綴ることができます。1回のゲームで、この特殊アクションを3回まで使うことができます。緊急避難的に使うのが一番わかりやすい用法でしょうが、他人の死亡フラグをさらに強化することもできるでしょう。

 とまあ、こんな感じで、世に物語生成系のゲームは数多く存在するのですが、勝利条件の設定や脱落のルールで一風変わったユニークなゲーム性を持つタイトルに仕上がっています。
 1ラウンドで1人だけ死ぬという「クク(カンピオ)」と似たような構造は「最弱にさえならなければセーフ」という自由度の源泉でもあり、この手のゲームにありがちな「なんか面白いこと言わなキャラが死んでまう……」というプレッシャーから割と縁遠いのが2020年の試みだなという感じです。まあ、時にはやっぱりそういう場面も出てくるんですけども……
 基本的には他人の死亡フラグを無責任にズンドコズンドコ立てまくるのが楽しい遊び方ではないかなと思います。「コイツが生き残る(死ぬ)と面白いよね?」をその場の全員で合意形成していくゲームなんではないかなと。

 これは喜悲劇を作る神々のお遊びなんですよね。そして神々の手のひらの上で生死を転がされるキャラクターたち。命が軽~い。
 で、このメタな構造を俯瞰するとやはり演劇に纏わるMEKHANEというタイトルはドンピシャなんじゃないかと思えてきます。プレイヤーはデウスエクスマキナなんですね。

 プレイ人数は3-8人となっていますが、1人はゲームマスター的な悲運プレイヤーを担当するので、神々プレイヤーがある程度多い4人以上が面白そうかなと思います。
 8人プレイだと勝利条件の設定から悲運プレイヤーが勝つのは不可能になるんですが、まあ、神々プレイヤーにしても早々に勝利条件がなくなることも多いので、これは勝敗を気にせずに面白いお話を作るゲームだと考えたほうがよいかと思います。また、悲運プレイヤーも自分が勝つために誰を殺すかを決めるよりも、物語の面白さを優先してジャッジした方が全体としての満足度は高くなると思います。
 そこはルールとコンセプトにコンフリクトがあって、多少フワフワしたゲームなのは否めないんですが、表面的なアクティビティに終始するゲームも多い昨今、そこからもう一歩ゲーム側に踏み込もうとする明確な挑戦を感じられるのはよいです。

 もちろんアートの独自性は際立っていて、見る人によっては堪らない内容なのではないでしょうか。カードを眺めているだけでも面白いです。
 ぼくはアート界隈はあまり詳しくないので突っ込んだことは語れないのですが、バンドデシネっぽさもありますね。が、まあ、これはイタリアのゲームなのでどこまで影響があるかは謎……
 見た目からは相当な色物タイトルかと思いきや、ゲームデザインとしてはユニークな試みが随所にあって見どころもあり、一度遊ぶ価値のある攻めたタイトルではないかと思います。「死亡フラグを立てるゲーム」という言葉に魅力を感じる人はぜひ一度お試しを!