「ステップアップ幻想」の話

 先日、ボードゲームポッドキャスト「ほらボド!」に呼んでいただいて、ホスト役のmomiさん、アークライトゲームズの刈谷さん、ボードゲーム芸人のいけださんとともにボードゲームシーンの今、これからをそれぞれの立場でお話させていただいた時のこと。
 「ライトなゲームから戦略性の高いゲームへステップアップしていかない」という話から、私は「ステップアップで云々みたいな話っていうのは、幻想か、もしくはビジネス的なトーク」と持論を展開させてもらいました。
 それを「Table Games in the World」の小野さんの琴線に触れたようで、エッセイとして取り上げていただきました。(→リンク

 これが思いの外、反響があり、私もいろいろな人のツイートなりを拝見させてもらったのですが、「ステップアップ幻想」という言葉が一人歩きしている感があり、誤解をもたれている方も多いようなので、今回、ここで少し突っ込んで書いてみることにしました。

ステップアップ(論)幻想

 まず、今回、「ステップアップ幻想」という言葉から『ステップアップを経てゲームをより遊んでもらう』こと、それ自体を「幻想である」と断じている旨の会話だったと捉えられた方が多いような印象です。
 しかし、それは私が本来言いたかったこととは少し異なります。

 私は普段、職業柄、多くの方に接するわけですが、その中で「周りの人を『ステップアップ』させたい」ということをうかがうことは少なくありません。
 これはゲームをこれまで長く遊んできた方に多いというよりも、ここ数年でボードゲームの魅力を知り、今まさに「もっともっとゲームを遊びたいし、知っている人を増やしたい」と思っている方に多い印象です。
 より詳しく話を聞いてみると、大多数というわけではないものの「ステップを踏んでこなかった」方も少なくありません。
 「自分はステップを踏んでこなかったけれど、誰かにボードゲームをより知ってもらいたい時、ステップを踏んでもらおう、ステップアップしてもらおう」と思ってしまっているわけです。
 そう思い込んでしまわないためにも、「ゲームをより知ってもらうためにはステップを踏ませたほうがいいよ」というステップアップ(論)を「幻想ではないか」と表わしたのです。
 決して「ステップアップ」自体を否定したわけはなく、むしろ、「ステップアップ」が有効な過程であることも知っています。
 しかし、その「ステップアップ」の形は、それこそ無数にあり、「これがまさに王道のステップアップ」と決めることはできないでしょう。
 ただ、より多くの方に当てはまるであろう「ステップアップ」の形を提示することも重要です。「ほらボド!」の中で、「幻想」と同時に「ビジネス的トーク」との言葉を用いました。「多くの方が参考にしやすい形で提示する」ことを、私は「ビジネス的トーク」と表したのです。

ステップアップの形

 多くの方がゲームに触れるようになった今、「ステップアップ」という言葉も、狭義のもの、広義のもの、と分けて考えるタイミングになったのかもしれません。

 「ステップアップ」という単語から、多くの方は「簡単なゲーム→難しいゲーム」という形を想像するかもしれません。
 「簡単なゲーム→難しいゲーム」というステップアップは、「ひとつの側面でそうであるけれども、ある側面ではそうではない」のではないでしょうか。
 今回の「ほらボド!」では「簡単なゲーム→難しいゲーム」という流れを前提に「ステップアップ」の話をしていましたが、それは狭義のステップアップであるように思います。

 では、広義のステップアップとはどのようなものでしょうか。
  例えば、ある「大喜利系パーティーゲーム」を楽しんだ方が、さらにゲームを遊びたいと思った時のステップアップについて考えてみます。
 これを狭義のステップアップで、次のステップを考えるなら、「少し戦略性のあるカードゲーム」辺りでしょうか。「ボードゲーム」に触れてみる意味でも、大定番を試す価値もあるでしょう。
 しかし、「異なるスタイル(システム)のパーティーゲームを試す」、「ゲームとしての駆け引き、得点要素のあるようなパーティーゲームを試す」というようなステップアップもあるはずです。
 これは、中級以上のゲームにも当てはまります。
 「45分くらいの競りゲーム」を楽しんだ後のステップアップ。
 「60分~90分くらいのゲーム」、「さらにいくつかの要素を縦走的に重ねたより複雑な競りゲーム」、「まったく異なる(遊んだことのない)システムのゲーム」、いずれも当てはまるでしょう。
 
 もちろん、狭義のステップアップ、広義のステップアップのどちらについて話すべきかということではありません。
 これからは、発信する側も、受取る側も、この点を少し気をつけて話せるならば、よりたしかな形で話ができるのではないでしょうか。

販売店、出版社として

 今回、ブログのトピックとして書かせていただきましたが、販売店として、そして出版社としては、すでに、そして自然に意識させていただいていることでもあります。

 店頭で、ご相談いただいた場合は、「どういったゲームが欲しいのか」はもちろんのこと、「これまでのゲーム経験」、「想定している場、メンバー」さまざまな点をうかがった上で、ご提案をさせていただいています。
 はじめてゲームをやる人、ひとまずは「今日の飲み会」で楽しめればいい人、プレゼントにしたい人、ゲームを買われる方の幅は本当に広がっています。
 そして、もちろん、「ステップアップしたい人」。
 それぞれの方に真摯に向き合い、最良の提案をさせていただくことはとても重要です。
 このときに、前述の「ステップアップ(論)」に安易に頼ってしまわないよう、自戒気味に「幻想」と思っているのかもしれません。

 一方、テンデイズゲームズは、出版社としての顔も持っています。
 出版社として「ステップアップ」についてのアプローチを考えた時、また違った面が出てきます。
 テンデイズゲームズでは、多くのゲームを発売していますが、これらのゲームについて一つ一つ、出版社自らが販売店と同様の形でお客様一人一人にご提案していくことは不可能です。
 しかし、なんらかのアプローチはできるはずです。
 テンデイズゲームズは決して大きな出版社ではありませんが、そのラインナップの幅は、キッズゲームから、パーティーゲーム、重量級ゲームの日本語版、コアユーザー向けの和訳付輸入版など、出版社としての規模に見合わない幅の広さがあると自負しています。
 ラインナップの拡充と安定供給をはかることで、より多くの方に、さまざまな選択肢をご提供できるものと思っています。
 お客様一人一人が、それぞれの環境でボードゲームの購入やステップアップを考えた時や、出版社よりもファンの方に近い販売店やサークル主催者の方々などへ、多くの選択肢を提供できるように努めることは出版社としてとても重要だと思うのです。
 もちろん、まだまだ課題はたくさんあります。今、私が取り組みたいものとしては、「お客様と購入ゲームのミスマッチがおきないよう、より参考となる情報を提供する」ということでしょうか。

最後に

 今回、多くの方が「ステップアップ幻想」というトピックについて考えたり、語られたように思います。
 日本のボードゲームシーンは、まだまだはじまったばかりではないでしょうか。
 そのボードゲームシーンで、ひとつのトピックが熱を持って語られるというのは、とてもいいことだと思います。(もちろん、そんなことは放っておいて、純粋にゲームを楽しむのも大事です)
 いろいろな方の話を共有し、昨日より今日、今年より来年、5年後より10年後のボードゲームシーンがより充実したものになればいいなあと思います。

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